精神科医の和田秀樹先生に教わる「高齢者のうつ病を予防する7つのポイント」

ストレスをためないための3つの方法

高齢者のうつ病を予防するためには、脳内のセロトニンを減らさない、できれば増やす生活を心がけることだとこれまでずっと述べてきました。一方で、セロトニンの分泌に悪影響があると考えられているのがストレスです。

「ストレス」という言葉ですが、我々が専門家として使う用語と、一般にいわれるストレスにはちょっと違いがあります。例えば、上司がパワハラまがいのことをしてくるという場合、「上司がストレスだ」というような言い方が一般的にはなされます。この場合、専門用語では、上司は「ストレッサー(ストレスを与えるもの)」ということになります。そしてストレッサーに対する相手の人の反応を「ストレス」というのです。だから同じように嫌な上司でも、ストレスを感じる人と感じない人がいるわけです。ということでストレスを減らしたり、なくしたりするには3つの方法があります。

1 ストレッサーから逃げる
2 ストレッサーに対するものの見方や受け止め方を変える
3 ストレスがたまってきたら解消する

例えば、上司や近所のうるさい人がストレッサーになっている場合。
1の「ストレッサーから逃げる」とは、「会社を辞める」「異動させてもらう」、近所の人が嫌なら「転居する」という対応をすることです。それでストレスがなくなるなら、決して悪いことをしているわけではありません。ただ、現実にはそうはうまくいかないことも事実です。昔と比べて転職がしやすくなったとはいえ、いまの会社より条件のいい会社がなかなか見つからないという現実もあります。長く勤めている人ならば、なおさらそうでしょう。

高齢者の場合は、会社で嫌な思いをすることは少なくなりますが、近所に住んでいる人が気の合わない人だったり、嫌な人だったりすることは珍しくありません。会社で働いていた頃は、そんなに顔を合わせたり話したりすることがなかったものが、そうでなくなると自然と会う機会も増えます。相手が嫌な人だった際のストレスがそのために大きくなることは結構ある話です。ところが、そのために転居するというのも高齢になるほど難しいでしょう。

その際に大切なのが、2の「ストレッサーに対するものの見方や受け止め方を変える」ことです。これは認知療法の基本的な考え方です。「嫌な人でもいい点もあるはずだ」とか、「悪気はなさそうだ」とか、「どうせ会うのは1日30 分程度で残りの時間は会わないで済む」といったように見方を変えると、以前ほどはストレスを感じなくなることでしょう。

前にもお伝えしたように、決めつけは「心に悪い考え方」です。相手をいい人だと決めつけると、少しでも嫌な点を発見するとガッカリしますし、悪い人と決めつけるといい点に気づかなくなるし、どうしてもその人を避けてしまいます。「人間にはいろいろな面があるのだ」と思い、考えを柔軟にすることでストレスが減っていくことは確かです。

「相手やその環境から逃げることができない」「ものの見方を変えてもやはりストレスを感じてしまう」という場合の、第三の手段が3の「ストレス発散、ストレス解消」です。
日本の場合、長い間、会社で嫌なことがあったり、嫌な上司がいる場合、就業後、居酒屋のようなところで愚痴を言い合う文化が続いていました。欧米のようにカウンセリングが充実していないのに、人々のメンタルヘルスが健全に保たれていたのは、この文化があったからだと私は考えています。コロナ禍を経て、そういう文化がかなり衰退してしまったのは残念なことです。コロナ禍の際に人々が愚痴を言い合い、なごんでいたのは喫煙所だったような印象です。タバコそのものは体にいいとはいえませんし、私自身はタバコを吸いませんが、喫煙所の脇を通るたびに、なごやかな雰囲気を見て感心したものです。

アメリカでは、当たり前のように(といっても中流階級以上の話ですが)カウンセリングが行われますが、心に悪い思考パターンの修正の他に、やはり愚痴のようなものを吐き出すことでストレス解消を行っていると考えられます。もちろん、夫婦仲などがよく配偶者に愚痴を聞いてもらうこと、晩酌をしながら憂さ晴らしができることも、ストレスをため込まないためには有効です。

このようにストレッサーがあり、それをストレスに感じている場合、「誰かに聞いてもらえる」ということがストレスをため込まないための有効な手段となりますが、ストレス解消の手段は他にいくつもあります。「バッティングセンターで思い切り球を打つとスカッとする」、「ゴルフをするとスカッとする」、「カラオケで思い切り歌うとスカッとする」など、自分に合ったものが一つあるだけで、ストレスが解消され、たまりにくくなります。そういうものを探してみる努力をするのは、大切なことだと思います。

ストレス解消が目的ですから、上品なものである必要はありません。男性なら女性のいる店に行くとストレスが解消されるという人がいるでしょうし、別にアダルト動画を観てストレス解消になるのなら全然問題ありません。最近、評判の悪いホストクラブですが、シャンパンタワーでイケメンの男の子たちとバカ騒ぎをして、お金はかかるけれど、ストレス解消になるという女性社長や女医さんなどがいることも耳にしたことはあります。どんな形であっても、ストレスをためないことがセロトニンを保つためには大切なのです。

 

<教えてくれた人>

和田秀樹(わだ・ひでき)先生

東京大学医学部卒業。精神科医。ルネクリニック東京院院長。高齢者専門の精神科医として30年以上にわたり高齢者医療の現場に携わる。近著『80歳の壁』(幻冬舎新書)は59万部を超えるベストセラー。他、著書多数。

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『65歳からおとずれる 老人性うつの壁』

(和田秀樹/KADOKAWA)

1078 円(税込)

幸福な高齢者になるには、65歳からおとずれる「老人性うつ病」の壁を乗り越えることが必須。30年以上にわたって高齢者の精神医療に携わってきた著者が教える「うつに強い人間になって、人生を楽しむための一冊」。

※本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

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