精神科医の和田秀樹先生に教わる「高齢者のうつ病を予防する7つのポイント」

「かくあるべし思考」を植えつけるテレビは見ない

さて、セロトニンを増やしたり、減らさないためにできることを挙げてみましたが、このように脳内のハードウェアの環境を良くするだけでなく、脳内のソフトウェアをうつ病を遠ざけるものにしなくてはいけません。

「心に悪い考え方」が身についてしまっていると、うつ病になりやすいし、うつ病になった際に治りにくくなります。また、一度治ったとしても、再発しやすいままです。先に紹介したように「心に悪い考え方」にはいくつかあるのですが、それを遠ざけるために、テレビ、特に情報番組はなるべく見ないことをおすすめします。テレビが心に悪い点には、4つの理由があります。

1つ目は、「かくあるべし」思考です。
テレビというのは、「正義を持ち上げ、悪を許さない」というスタンスを取り続けるものです。例えば、人気タレントや俳優が不倫をすると、その人のいい点をまったく無視して、コテンパンに叩きます。もちろん、不倫というのは道徳的に許し難いものですが、残念ながら人間には弱い点があるのも事実です。もちろん、CMなどで高額の出演料をもらっているのですから、その商品のイメージを傷つけるようなことは許されないでしょう。一般人に比べて影響力が大きいのですから、不道徳なことをすることが、人々、特に子どもに悪影響を与えることも事実でしょう。しかし、こういう人の中にはセックス依存症という病気の人もいます。そうであれば、プロゴルファーのタイガー・ウッズのように、治療を受けさせることのほうが大切です。「いかなるときでも聖人君子でいろ」というのは、少なくともメンタルヘルスにとってはいい考えとは思えません。人間というのは弱い生き物であるから、「かくあるべし」の通りにはいかないときもあるということが認められるかどうかで、その後の心の在り方は大きく違ってくるでしょう。

コロナ禍では、外で仲間とお酒を飲んだり、食事をしながら同僚に愚痴を聞いてもらったりといったある種のストレス発散をしようとすると、スマートフォンで写真や動画を撮られ、それがSNSで流され、コテンパンに叩かれるといったことが多々ありましたが、テレビのコメンテーターたちは、映された側の事情を一切かんがみることなく、「不謹慎だ」という発言一色でした。あるいは、一人の高齢者が交通事故を起こすと、他の年代の人が事故を起こしていることを顧みることなく、「免許を返納しない高齢者は不道徳である」というような圧力がかかったこともあります。このような「かくあるべし」思考が、テレビを見るうちに刷り込まれてしまうのです。

テレビが「心に悪い考え方」を刷り込ませる

2つ目は、「決めつけ」や「単純化したものの考え方」が植えつけられることです。
さすがにイスラエルとパレスチナの問題では、「どちらがいい」「どちらが悪い」という決めつけはだいぶ減りましたが、ロシアとウクライナの戦争が始まった際には、「ロシア=悪、ウクライナ=正義」というような論調一色となっていました。国際情勢の場合、そんなに単純に割り切れるものではないし、歴史的な背景もあるでしょう。コロナ禍では、テレビ報道がコロナ一色に染まり、「コロナは危険で怖いものだ」という決めつけが植えつけられ、「少しでも感染者が出てはいけない」という論調が目立ちました。私もテレビに出ていた当時は、「コメントをなるべく短く」と言われ、いろいろな可能性を提示しようと思ってもそうすることを許されませんでした。これも「心に悪い考え方」を植えつける背景となっています。

3つ目に「完全主義」があります。勉強ができるだけではダメで、性格や運動能力も大切だとか、スポーツ選手にも人格の良さを求めたり、完全な人間を求めるというのがテレビマスコミの姿勢です。完全を目指せば、満足することはそれだけ少なくなりますし、不完全感が強くなることも多くなるでしょう。高齢になるほど「完全」を目指すことは難しくなるという現実もあります。「満点というのは、現実的には無理で、合格点であればそれでいい」という考え方を、高齢になるほど身につけてほしいのですが、テレビはそれを妨げるものだと言っていいでしょう。

4つ目は、「不安を煽る」ことです。コロナを必要以上に怖いものと思わせることで、多くの高齢者が外出を怖がり、足腰や脳が弱ることにつながりました。「犬が人間を嚙んでもニュースにならないが、人間が犬を噛むとニュースになる」という風に、テレビというのは珍しいものを取り上げるメディアです。テレビで報じられることは例外なのだというスタンスで視聴しないと、常に不安にさらされ、余計なストレスを抱えたり、心を病みかねません。うつ病を予防する生活として、テレビを遠ざける意味は大きいと思います。

もちろん、娯楽のためにテレビを見ること自体は悪いことではありません。面白いものを見て笑うことは免疫力の向上にもいい効果があります。しかし、テレビは若者に迎合したものばかりが目立つので、高齢者が笑えることは少ないように思います。多少、お金がかかってもDVDや有料の配信などを使ってレベルの高い漫才や落語に触れることをおすすめします。

【今回のまとめ】
・うつ病を予防するためには、セロトニンを増やす生活を。
・「やってみなければ分からないことは実験」と考えて取り組む。
・失敗は成功へのチャンス。次の実験に取り組むことが大切。

構成/寳田真由美(オフィス・エム) イラスト/たつみなつこ

 

<教えてくれた人>

和田秀樹(わだ・ひでき)先生

東京大学医学部卒業。精神科医。ルネクリニック東京院院長。高齢者専門の精神科医として30年以上にわたり高齢者医療の現場に携わる。近著『80歳の壁』(幻冬舎新書)は59万部を超えるベストセラー。他、著書多数。

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『65歳からおとずれる 老人性うつの壁』

(和田秀樹/KADOKAWA)

1078 円(税込)

幸福な高齢者になるには、65歳からおとずれる「老人性うつ病」の壁を乗り越えることが必須。30年以上にわたって高齢者の精神医療に携わってきた著者が教える「うつに強い人間になって、人生を楽しむための一冊」。

※本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

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