残りの人生は"実験"というスタンスで生きる
よくメンタルヘルスにいい生き方の見本を問われた時に「高田純次さんのように、テキトーに生きられるといいですね」とお答えするのですが、お笑いのプロに聞いても「それはハードルが高い」と言われます。確かに広く芸能界を見渡しても、同じようにテキトーで売っている人がいないことからも分かるように、簡単そうで実は難しいことなのでしょう。
そこで、最近私が申し上げているのは、「世の中、理屈通りにいかない」「やってみないと分からない」という考えを、自分のものにしてほしいということです。日本で30年以上の不景気が続いているのも、金融緩和だの財政出動だの、理屈通りの景気浮揚策が理屈通りにいかなかったからでしょう。そんなに大げさな話でなくても、歳を取ってくると、例えばおいしいラーメンを選ぶ際、「グルメサイトの評価が自分とは違っている」と感じる人も少なくないことでしょう。服を選ぶときでも、似合うかどうかは、まずは着てみて、周囲の評価を聞いてみないことには、自分に似合っていると思われるかどうかは分かりません。あるいは、髪を緑色に染めても「みっともないからやめなさい」といわれるか、意外に似合っていて「若返ったね」といわれるかは、やはりやってみないと分かりません。それを自分で最初から答えを決めて、「笑われるに決まっている」などと思わないようにするのです。
食べ物屋に入るときも、おいしいかどうかは、食べてみないと分かりません。ここで大切なのは、「やってみなければ分からないことをやってみることは、実験だ」と考えることです。1時間も並んでやっとラーメンを食べられたけれど、それがおいしくなければ実験が失敗したと思えばいいし、おいしければその実験は成功です。服が似合うかどうかも実験です。習い事を始める際も、「うまくなりそうだ」と感じたり、うまくなれば成功、ダメだったら失敗ということです。実験というのは、最初から成功すると思ってやるものではありません。
もう一つ、実験の大切なポイントは、「失敗したら次の実験に取り組む」ということです。今日行ったラーメン屋がおいしくなければ、次の店を試してみる。服が似合わないといわれたら、別の服を試してみる。習い事がうまくいかなければ、別の習い事にチャレンジすればいい。そうこうしているうちに、最終的に成功して、新たな発見ができるのが実験です。こう考えれば、残りの人生でいろいろな実験ができるものです。
この考え方で、「人生、うまくいくこともあれば、うまくいかないこともある」ということが体得できれば、ちょっとうまくいかないことがあっても、それほど落ち込まなくて済みます。また、余計な決めつけもだんだんとなくなっていくことでしょう。うまくいかなくても、「このまま一生ダメだ」とか、「自分はダメな人間だ」と思わなくて済むのです。また、このような実験精神で、脳の、とくに前頭葉の老化を防ぐこともできますし、残りの人生で退屈することも少なくなります。
うつを予防するためには、このように柔軟な発想をもつことが大切です。高田純次さんほどでなくても、「こうでなければ」という考え方から「テキトーでいいや」の発想がもてるようになれば、人間的にも面白い人と思われるようになることでしょう。
逆にいうと、これまでいろいろとうつを予防する方法を紹介してきましたが、「全部やらないといけない」とクソまじめに考える必要はありません。できそうなことから試していければ十分です。そして、少しずつ自分が変わっていって、うつに強い人間になって、残りの人生を楽しんでもらえれば、著者として、そして精神科の医師として幸甚この上ありません。
【何ごとも実験だと思って行動する】
なんでもやってみなければ結果は分かりません。どんなことでも「これは実験だ」と思い、まずはやってみることがうつ病の予防にもつながります。
【失敗は恐れず、何度でも挑戦】
たとえ一つのことがうまくいかなかったとしても、それは「実験が失敗した」というだけのことです。「こうでなければ」と決めつけず、「テキトーでいいや」という発想を身に付けましょう。