精神科医の和田秀樹先生に教わる「高齢者のうつ病を予防する7つのポイント」

【2】コレステロール値は高めのほうがいい
さまざまな調査では、血中のコレステロール値が高い人のほうがうつ病になりにくいことが分かっています。また、うつ病になった際も治りやすいのです。これは、コレステロールが、セロトニンを脳内へと運ぶ働きをしているからではないかと考えられています。

また、コレステロールは、男性ホルモンや女性ホルモンの材料になり、老化を遅らせる働きがあります。免疫細胞の細胞膜の材料でもあり、コレステロール値が高い人のほうが、免疫機能が高いことも知られています。

一方で、コレステロールが多過ぎると、動脈硬化を引き起こすリスクが高まるのは確かです。また、コレステロール値の高い人のほうが心筋梗塞になりやすいという調査結果もあり、コレステロールは何かと悪者にされがちです。欧米のように心臓病が死因のトップクラスの国はともかくとして、日本のようにがんで死ぬ人が心筋梗塞で死ぬ人の10倍以上いる国では、コレステロール値は高いほうが望ましいと考えられます。

そう考えると、うつ病の予防のためには、むしろコレステロール値が高めのほうが良いというのも受け入れやすいと思います。セロトニンを増やすだけであれば、大豆などが健康的に思われるかもしれませんが、コレステロールも一緒に増やしたいなら、肉類や乳製品のほうが、うつ病予防に効果的な食品といえるでしょう。

【3】午前中に太陽の光を浴びる
セロトニンを増やす上で、もう一つ大切なのが光、とくに太陽の光です。

食べ物の摂取では、前述のように血中のセロトニン濃度が上がるだけで、脳内のセロトニンが直接増えるわけではありません。しかしながら、網膜に日光のような強い光が当たると脳内のセロトニン神経が活性化され、それによって脳内でセロトニンが分泌されます。

ある程度以上、トリプトファンを摂っている人であれば、日光を浴びるのは最も効果的な脳内のセロトニン増加法、つまりうつ病の予防法といえるのです。脳内にセロトニンが十分にあると、不安を感じにくくなります。イライラするといった感情も落ち着くことでしょう。さらにセロトニンは、夜になると脳内でメラトニンという睡眠物質に変わるため、セロトニンが十分にあると、睡眠の状態も良くなるのです。日光を浴びるのは、頭をスッキリさせるためにも、夜に眠りやすくするためにも、午前中が効果的です。なぜならセロトニンが脳内で増えてくると、スッキリと覚醒できますし、夜になるとメラトニンが増えてきて自然に眠ることができるからです。

北欧のように冬場に日光がでない地域では、冬季にうつ病が増えることが知られています。そういう人には人工の強い光を当てる治療が行われます。逆にいうと、強い光であれば日光でなくてもいいのです。部屋を明るくしておくのもうつ病の予防法といえます。

【4】運動はのんびり歩く散歩で十分
適度な運動も、セロトニンを増やすことに役立ちます。特に、リズミカルな運動がセロトニンの分泌を促すとされています。ウォーキングやジョギングなどが望ましいということになっていますが、私としては、ひたすら歩くウォーキングよりものんびり歩く「散歩」で十分だと考えています。街の景色や変化を楽しみながら歩く散歩は、視覚刺激を含めて脳に刺激も与えてくれますし、無理なく続けられるのがメリットです。まずは3000歩ぐらいを目指して、楽しみながら歩かれたらいいと思います。

 

<教えてくれた人>

和田秀樹(わだ・ひでき)先生

東京大学医学部卒業。精神科医。ルネクリニック東京院院長。高齢者専門の精神科医として30年以上にわたり高齢者医療の現場に携わる。近著『80歳の壁』(幻冬舎新書)は59万部を超えるベストセラー。他、著書多数。

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『65歳からおとずれる 老人性うつの壁』

(和田秀樹/KADOKAWA)

1078 円(税込)

幸福な高齢者になるには、65歳からおとずれる「老人性うつ病」の壁を乗り越えることが必須。30年以上にわたって高齢者の精神医療に携わってきた著者が教える「うつに強い人間になって、人生を楽しむための一冊」。

※本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

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