「うつ病は心がは心が弱い人がなる」は誤解。逆に注意すべき「考え方」を精神科医の和田秀樹先生が解説

「気の遣い過ぎ」がうつ病の誘因に

他者配慮性というのは、自分ががまんしてまで、人の意向を優先させるということです。このように人に気を遣う人は、日本にはまだまだ多いでしょう。例えば、マスクとは、病気を人にうつさないためのもので、自分の感染予防のためのものではありません。だからコロナ禍以前は風邪をひいていたり、インフルエンザにかかっている人がするものでした。しかしコロナ禍以降、熱射病のリスクが高まるにもかかわらず、感染していなくてもマスクをつけるのは、人に不安を与えないためという、日本人の他者配慮性の表れだと思います。常日頃から他人に気を遣ってばかりいて、自分を押し殺していると、当然ストレスがたまります。うつ病になりやすいのも、もっともなことといえます。

日本の場合、高齢者のせいで税金が高いとか、統計的な根拠はないにもかかわらず高齢者が運転すると歩行者に危険だとか、何かにつけて、高齢者が増えることで、一般の人が迷惑するかのような言説が多いので、他者配慮性が強い高齢の人にとっては、自分が迷惑な存在だと思いがちです。実際、一人暮らしの高齢者より、家族と同居する高齢者のほうが、自殺が多いことが知られています。一人の寂しさ以上に、家族に迷惑をかけていると思い込む罪悪感のほうが、うつ病を誘発し、自殺のリスクを高めるのでしょう。

さて、この几帳面、秩序愛、他者配慮性という性格の人が親になると、子どもにも几帳面さを求めたり、目上の人を敬うという秩序を大事にするようにとか、わがままはいけないというような形でしつけをする可能性がとても高くなります。メランコリー親和型性格というのは、そういう理由で、親から子に引き継がれやすいものです。これがうつ病を遺伝させる大きな要因だと私は信じています。

セロトニンを増やす生活がうつの予防に

そうはいっても、高齢者がうつ病になりやすいのは、若い頃と比べて、セロトニンという神経伝達物質が減っていることが大きな要因なのは間違いありません。加齢により減っているセロトニンをさらに減らす生活を送ることで、うつになりやすくなることも確かでしょう。

例えば、会社に勤めていた人の場合は、定年退職後、家に引きこもりがちになると、勤めをしていたときよりも日光に当たる時間が減ります。コロナ禍では、感染予防のために買い物を週1回にするなどして、外に出なくなった人は少なくないでしょう。これも日光に当たる時間を減らすことになります。

セロトニンを分泌するセロトニン神経は、網膜が日光の光を感じることで活性化するとされています。日光を浴びる時間が十分でないと、セロトニン不足が起こりやすくなるのです。実際、北欧の緯度の高い地域では、昼間の時間が短くなったり、一日中日光が出なくなったりすると、冬季うつ病というものがかなりの頻度で発症します。その治療に高照度光療法といって、30分から1時間くらい、強い光を当てるものがあります。それがこの冬季うつ病にかなり有効なのです。

そういう意味で、家に閉じこもりがちの人はうつ病になりやすいといえるでしょう。仮に閉じこもりがちであれば、かなり部屋を明るくすることで予防になるはずです。

次に、栄養です。セロトニンの材料は、トリプトファンという必須アミノ酸です。必須アミノ酸というのは、自分の身体の中で作ることができないので、体外から十分摂らないと不足してしまいます。トリプトファンの材料になるのはたんぱく質ですが、肉、魚、豆、種子、ナッツ、豆乳や乳製品などは、トリプトファンの含有量の多い食品とされています。

こういう話をすると魚や豆のほうが健康に良いと思われがちですが、コレステロールが脳にセロトニンを運ぶ働きをするといわれており、肉を摂ったほうが効率がいいという考え方もあります。私もそう考えて、高齢者には肉をすすめています。日野原重明さん、瀬戸内寂聴さん、三浦雄一郎さんなど、歳を取っても元気な人は肉好きが多いことはよく知られた事実です。

最後は、適度な運動です。セロトニンを増やすには、一定のリズムのある運動がいいとされています。私がおすすめしているのは、散歩です。これは比較的歩くリズムが一定になりやすく、セロトニンの分泌を促す効果があります。その上、視覚刺激がセロトニンの分泌を高め、また脳の前頭葉の活性化につながるからです。

【セロトニンを増やす生活習慣】
うつ病の予防にはセロトニンを増やす工夫を。「日光を浴びる」「肉料理を食べる」「散歩」が有効です。

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老化をすすめるダイエットはうつの大敵

逆にうつになりやすいのは、家に閉じこもって運動をしない人、そして栄養が足りない人ということになります。

歳を取ってからのダイエットは、栄養不足のために肌ツヤを悪くしますし、老化を促進するばかりでなく、免疫機能を落とす上、うつにもなりやすくなるので、私は『やせてはいけない!』(内外出版社)という本を出すほどに反対しています。特にセロトニンは、ブドウ糖が十分なときに産生が高まるとされています。甘いものを食べると幸せな気分になるのは、おそらくそのためなのでしょう。

うつになりやすい生活習慣として、ダイエットを最後に挙げておきたいと思います。

 

<教えてくれた人>

和田秀樹(わだ・ひでき)先生

東京大学医学部卒業。精神科医。ルネクリニック東京院院長。高齢者専門の精神科医として30年以上にわたり高齢者医療の現場に携わる。近著『80歳の壁』(幻冬舎新書)は59万部を超えるベストセラー。他、著書多数。

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『65歳からおとずれる 老人性うつの壁』

(和田秀樹/KADOKAWA)

1078 円(税込)

幸福な高齢者になるには、65歳からおとずれる「老人性うつ病」の壁を乗り越えることが必須。30年以上にわたって高齢者の精神医療に携わってきた著者が教える「うつに強い人間になって、人生を楽しむための一冊」。

※本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

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