「うつ病は心がは心が弱い人がなる」は誤解。逆に注意すべき「考え方」を精神科医の和田秀樹先生が解説

うつ病になりやすい性格とは?

ということで、うつ病は遺伝しやすいのではなく、「うつ病の親に育てられたから、うつ病になりやすい性格が引き継がれるのではないか」という考え方をする医師は、私も含めて、少なくありません。

1960年代初頭、ドイツのハイデルベルク大学教授であるフーベルトゥス・テレンバッハという精神科医が、独自のうつ病論を展開し、その中で、病前性格(うつ病になりやすい性格)として「メランコリー親和型性格」というタイプの性格を問題視しました。「几帳面」「秩序愛」「他者配慮性」の3つの傾向を併せ持つ性格で、日本人とドイツ人に多いタイプということで、一気に日本の精神医学の世界にこの考えが広がりました。

しかし、テレンバッハの本の中に出てくるうつ病患者は、その几帳面さが極端すぎて周囲にうっとうしがられるレベル。しかも、几帳面以外にこれといった長所がなく、融通がきかないような人で、日本で広まった解釈は日本人に受けるように曲解したものだという批判があります。また、そういう性格の人が、目の前の仕事などで自分のリズムが狂い、物事の優先順位がつけられなくなることでうつ病を発症するとして、単なる性格の問題ではないという考え方もあります。さらに、これまでも話してきたように、うつ病は脳の神経伝達物質であるセロトニンが不足すると脳内の情報伝達が悪くなり、さまざまな症状が生じる病気なので、このタイプの性格だからといった考え方は誤解を招くという人もいます。

私がみるところ、やはり同じくらいセロトニンが減った場合、こういう性格の人のほうがうつ病になりやすいのは、間違いないと思います。

【メランコリー親和型性格とは】
「他人に気を遣い過ぎる」「几帳面でルールにしばられる」「秩序を重んじる」といった傾向を併せ持つ性格。

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「几帳面」さゆえルールにしばられる

ただ、性格の程度問題はあるでしょう。確かにずぼらな人のほうが几帳面な人より、細かいことを気にしないのでストレスを感じにくいでしょう。しかし、几帳面さそのものがいけないということではなく、几帳面さゆえ、自分のルールにしばられたり、そうでないと気がすまないという性格が、うつ病を呼ぶと私は考えています。

例えば、「仕事が終わっていないのに家に帰ると、そうした自分が許せない」とか、「部屋に一つでもホコリが見つかると、拭かずにはいられない」というような状態です。こういう人は、体調が悪くなったり、配置転換で仕事がなかなか覚えられないなどという状況の際に、体調が悪いのだから仕方がないとか、仕事に慣れてくれば何とかなるだろうとは考えられず、自分を責め、落ち込んでしまうのです。高齢者の場合、いろいろな能力が落ちてくるので、以前は几帳面にできていたことができなくなることが増えてきます。そういう自分が許せないと、うつになってしまうのでしょう。

「秩序へのこだわり」が落ち込みを生むことも

秩序愛というのは、日本の場合、上下関係や役割分担などに現れると思います。時代が変わっているのに、年下の人からタメ口で話しかけられたり、成果主義で年下の人が上司になったりすると、イライラしたり、落ち込んだりしてしまうのです。あるいは最近では、男性は仕事、女性は家庭などという秩序にこだわっていると、性差別者として断罪され、落ち込むことになります。

高齢になると、それまで会社や社会で一目置かれていたような人が、ただのおじいさんやおばあさんになったりするので、やはりこれまでの秩序が崩れます。親は子どもの面倒を見るものだという秩序にこだわっていると、だんだん身体が衰えてきて、子どもに面倒を見てもらうことに罪悪感を覚えたりもします。

 

<教えてくれた人>

和田秀樹(わだ・ひでき)先生

東京大学医学部卒業。精神科医。ルネクリニック東京院院長。高齢者専門の精神科医として30年以上にわたり高齢者医療の現場に携わる。近著『80歳の壁』(幻冬舎新書)は59万部を超えるベストセラー。他、著書多数。

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『65歳からおとずれる 老人性うつの壁』

(和田秀樹/KADOKAWA)

1078 円(税込)

幸福な高齢者になるには、65歳からおとずれる「老人性うつ病」の壁を乗り越えることが必須。30年以上にわたって高齢者の精神医療に携わってきた著者が教える「うつに強い人間になって、人生を楽しむための一冊」。

※本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

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