「うつ病は心がは心が弱い人がなる」は誤解。逆に注意すべき「考え方」を精神科医の和田秀樹先生が解説

良い出来事を素直に喜べない
【縮小視】
肯定的な特徴や経験が実際に起きたことだと分かっているのに、それを「取るに足らないもの」と、考えてしまうパターンです。

プロジェクトが成功したにも関わらず、「大したことは無い」とか「どうせ会社は評価しないだろう」と、良いことを過少評価して素直に喜べないようなケースです。こういう人は、成功を喜べないだけでなく、失敗に関しては拡大解釈する傾向があるので、なかなか気分が晴れず、いつも落ち込んでばかりいることになりかねません。

物事を判断するとき、感情に左右されてしまう
【情緒的理由付け】
感情的な反応が、実際の状況を現わしていると考える思考パターン。そのときの自分の気分や感情に基づいて、現実を判断してしまいます。

気分が良いときは、「いまやっている仕事は、成功するに違いない」と思い、落ち込んでいるときは、「この仕事は、どうせダメだろう」と悲観的に考えます。
気分が良いときは仕事のチェックが雑になり、落ち込んでいるときはビジネスチャンスを逃してしまいます。結局うまくいかないことが増えるため、うつになりやすくなるのです。

「かくあるべし」と自分を縛っていないか
【「~すべき」という言い方("should" statements)】
いわゆる「かくあるべし」思考です。
「こうするべき」「あのようにするべき」といった考え方が動機や行動を支配するので、無理をすることになりがちです。

だんだん歳をとってきて、自分が「かくあるべし」と思っていることができなくなると、そのことに落ち込んでしまうのです。例えば、「他人に頼ってはいけないのだ」「何事も自分で解決すべし」と思い込んでいるあまり、高齢になって不自由がでてきても公的な福祉サービスを受けることができないようなパターンです。

「仕事を終えるまで帰ってはいけない」という思考パターンをもっていると、無理をしがちですし、それができなかったときにはストレスをため込んでしまいます。ましてや、万が一、仕事を他人に押し付けたりするとパワハラと言われる時代なので、本当に責められることになりかねません。

自分で自分を決めつけていないか
【レッテル貼り】
ある特定の出来事や行為がその場限りのものと思えず、「いつもそうなること」のように考え、自分自身に大雑把なレッテルを貼ってしまうパターンです。

例えば、たった一度フラれただけで、「自分はモテない最低の人間だ」と自分自身にレッテルを貼り、結婚することやパートナー作りをあきらめてしまうようなケースです。他人から一度、不快なことを言われただけで、「あの人は、本当に嫌な人だ」と決めつけることもあります。

こういうタイプの人は、嫌なことがあるたびに、同じようなことがずっと続くと思って、かなり落ち込むことになるので、うつになりやすいのです。

自分こそが最大の原因だと考えてしまう
【自己関連付け】
何か身の回りで出来事が起こったときに、他の数々の要因が関連しているにも関わらず、自分こそが特定の出来事の原因であると考えるパターンです。

このタイプの人は、うまくいったときには「全て自分のおかげ」と思って有頂天になるため、周りの人に嫌われやすいですし、失敗すれば、他にいろいろな要因があっても「全て自分のせいだ」と落ち込むことになります。やはり、うつになりやすい思考パターンと言えるでしょう。

以上、うつになりやすい思考パターンを列挙しました。
うつ病の認知療法では、会話の中で、このような思考パターンが見られたら、それを指摘することでうつになりやすい考え方を修正していきます。
この文を読みながら、自分も当てはまると思うことがあった人は、その考え方を変えていくことで、ずいぶんうつ病の危険性が減ります。

心に悪い考え方が「適応障害」を引き起こすことも

さて、先に双極性障害(いわゆる躁うつ病)は生物学的要因が強いといいましたが、確かに双極性障害では、このような思考パターンが目立たない人でも、突然、ハイになったり、うつになったりすることは珍しくありません。

一方、これまで挙げてきた思考パターンの人がなりやすい心の病に、「適応障害」というものがあります。現在の皇后陛下が、かつて、この診断を受けたことで一気に有名になった病気です。公務のときはひどく落ち込んで仕事ができないことも多々ありますが、家に帰ると元気になり、子育てをはじめ私的な活動ができるので、皇室という職場に適応が困難だとされ、この病名がつきました。最近では、女優の深田恭子さんがこの病名を告白して話題になりました。

この適応障害は、職場では元気がなく、うつ病の患者さんのように落ち込み、体調も悪いのですが、仕事を終えて家に帰ると元気になるので、「さぼり病」のように思われることが少なくありません。
一方で、自殺する人も多く、昼間、職場にいる間は本当にうつ病とそっくりなので、「新型うつ病」という人もいます。私は、職場に適応しようとして、自分を追い込むことでかかる病気で、無理に適応しなくても良いと思えれば、症状は軽くなると考えています。

この病気は、夕方になると元気になることが多いので、うつ病とは違ってセロトニン不足はあっても軽いでしょう。しかし、ものの見方や考え方はうつ病とそっくり、つまり前述の「心に悪い考え方」を持っている人が多いようです。
いずれにせよ、「心に悪い考え方」は、少しずつでも減らしていった方がいいと私は考えます。

【今回のまとめ】

・「心が弱いからうつ病になる」は大きな誤解。
・几帳面、秩序を重んじる、気を遣いがちな人はうつ病に注意。
・「日光を浴びる」「肉を食べる」「散歩」で、うつ病を予防。

構成/寳田真由美(オフィス・エム) イラスト/たつみなつこ

月刊誌『毎日が発見』2023年9月号に掲載の情報です。

 

<教えてくれた人>

和田秀樹(わだ・ひでき)先生

東京大学医学部卒業。精神科医。ルネクリニック東京院院長。高齢者専門の精神科医として30年以上にわたり高齢者医療の現場に携わる。近著『80歳の壁』(幻冬舎新書)は59万部を超えるベストセラー。他、著書多数。

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『65歳からおとずれる 老人性うつの壁』

(和田秀樹/KADOKAWA)

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幸福な高齢者になるには、65歳からおとずれる「老人性うつ病」の壁を乗り越えることが必須。30年以上にわたって高齢者の精神医療に携わってきた著者が教える「うつに強い人間になって、人生を楽しむための一冊」。

※本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

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