すっきり起きれない、いびきがうるさくなったなど、歳を重ねてくると、誰でも大小さまざまな「睡眠」の悩みを抱えます。ただ、その悪い睡眠を放っておくと、思考力や集中力の低下を招き、仕事や生活が不安定になる恐れも。そこで「睡眠を変えれば人生が変わる」と説く医学博士・田中俊一さんの著書『45歳からは「眠り方」を変えなさい』(文響社)から、脳と体を老け込ませる「睡眠負債」をリセットする方法を連載形式でお届けします。
最近、やる気が出ないーそんな人こそ睡眠を変えよう
最近、なんだかやる気がでない。不安で眠れない。ちょっとうつ気味かも......なんていう方はいませんか。ここでは、うつ病や気分の落ち込みと、睡眠の関連を見ていきましょう。
睡眠時無呼吸症候群や短時間睡眠の方は、うつ病を発症する頻度が高いことは知られています。一方で、「うつ病の人はよく眠れない」ともいわれます。その患者さんによって、不眠が先かうつ病が先かの違いはありますが、いずれにせよ不眠とうつ病には関連性があるのです。実際私のところで不眠の治療をしたところ、うつ状態から抜け出せた方も大勢います。
眠れないだけなのに、精神科へ行ったばっかりに事態が複雑になってしまうケースもあります。
38歳のFさん(男性)は長距離トラックのドライバーなのですが、不眠症がひどく、高速道路を運転中にウトウトしてしまい、危うく事故を起こしそうになったことがありました。私のクリニックを訪れたときは、長期で会社を休職しているところでした。薬歴を見ると、数種類の睡眠導入剤に加えて、向精神薬まで処方されていました。Fさんは、眠れないのはストレスのせいだと思い、精神科に通っていたのです。
Fさんの検査をすると、やはり重度の睡眠時無呼吸症候群がありました。この症状がある方というのは、どうしても睡眠が浅くなりますから、実際は長時間寝ていても「よく眠れていない」と考えてしまうのです。
脳自体が、息が止まらないように深く眠らせないように作用している、といういい方もできるかもしれません。
このような方がいくら睡眠導入剤を飲んでも、眠りが深くなることはありません。それなのに、Fさんは、最初の睡眠導入剤の効き目が表れなかったために、薬の量も種類もどんどん増えていきました。薬が増えるごとに気持ちの落ち込みも激しくなり、向精神薬も処方されることになりました。
向精神薬には、食欲を亢進する(増す)作用がありますから、体重も半年で10キロ増えたといいます。首回りの脂肪がより多くなったために気道がさらに閉塞し、睡眠時無呼吸症状のさらなる悪化につながっていました。
そこで私はFさんに、「一度薬を全部やめにしましょう」と話をしました。
「仕事を休んでいるんだから、寝られないなら寝なくていいですよ。大丈夫、2、3日眠れなくて死んだ人はいませんから」と、睡眠時無呼吸症候群の治療だけに絞ったのです。Fさんはそれから3カ月で徐々に病態が改善し、半年後には仕事に復帰できるまでに症状が改善しました。
睡眠はうつ病との関連が深いものです。そのため睡眠がうまくいかなくなったときに、まず精神科へ向かってしまう人がかなりたくさんいらっしゃいます。そしてそこで処方される多量の睡眠導入剤や向精神薬が、状況をより複雑にしてしまうのです。
Fさんのように、本当は心に不調がないのに「眠れない」ことで勘違いしてしまっているケースは多々あります。
これから先、万が一、ご自身やご家族にうつ病やそれに近い症状が表れたときには、「まず睡眠を診てもらおう」と考えていただきたいと思います(ただし、すでに治療を受けている方は、独自の判断で薬をやめてはいけません。まずは、今の医師にかかりながら、睡眠専門のクリニックの扉を叩くことをおすすめします)。
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