「喪失体験」が引き金に?【なぜ高齢になるとうつが増えるのか】精神科医の和田秀樹先生

薬の見直しや脳の休息も大切

うつ病の有名な症状に日内変動というものがあります。午前中は調子が悪いが、午後になると元気になるというものです。睡眠導入剤の副作用でも起こることなので、そういった薬を常用している場合は、量を減らしたほうがいいことも多くあります。しかし、うつ病の可能性もあるので、内科で睡眠導入剤を出してもらっている場合は、一度、精神科や心療内科に相談したほうがいいかもしれません。

さて、長年高齢者のうつ病を診ていると、その逆のパターンが珍しくありません。午前中は比較的調子がいいのに、夕方になると不安感が高まったり、イライラしたり、落ち込んだりするのです。おそらく高齢者の場合、脳が疲れやすいので、夕方のほうが症状が悪くなりやすいということが起こるのでしょう。これも薬が効くことが多いですが、昼寝などで脳を休ませるのも有効なようです。

高齢になるとうつ病が増える理由

このように、高齢になるとうつ病とか、セロトニン不足で苦しむ人は意外に多いのです。一般的には、人口の3%がうつ病にかかっているとされますが、各種住民調査では、高齢者の場合、人口の5%位がうつ病とされます。これも、歳を取るほどセロトニンの分泌が減ることが大きな原因だと私は考えています。

というのも、若い人のうつ病の場合、脳内のセロトニンを増やす薬を使っても、あまり効かないことが多いのに、高齢者ではよく効くことが多いのです。ただ、前述のような心理的要因も、少なくともうつ病になる契機としては重要です。つまり、もともとセロトニンが少ないことに加えて、ガクッとくるような体験をすると、それらを引き金にしてうつ病になってしまうのです。

このようなガクッとくる体験の中で、最もうつ病につながるとされているものが喪失体験です。親やきょうだい、配偶者、親友の死などをきっかけに、うつ病になる人は少なくありません。死別でなくても、会社をやめて、職場や、その人間関係を失ってしまったとか、子どもが巣立って、特に結婚して、家からいなくなったなども、うつ病の契機になります。昔と比べて晩婚化が進み、30年とか40年一緒にいた娘や息子がいなくなる上に、自分も高齢になってセロトニンが減っている時期でもあるので、うつ病に陥りやすいのです。

高齢になると、この手の人間関係の喪失体験が増えるのは、確かです。私も父親が存命のときに「最近は、ハガキがくると思うと訃報ばかりだ」と嘆いていたのを覚えています。

 

<教えてくれた人>

和田秀樹(わだ・ひでき)先生

東京大学医学部卒業。精神科医。ルネクリニック東京院院長。高齢者専門の精神科医として30年以上にわたり高齢者医療の現場に携わる。近著『80歳の壁』(幻冬舎新書)は59万部を超えるベストセラー。他、著書多数。

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『65歳からおとずれる 老人性うつの壁』

(和田秀樹/KADOKAWA)

1078 円(税込)

幸福な高齢者になるには、65歳からおとずれる「老人性うつ病」の壁を乗り越えることが必須。30年以上にわたって高齢者の精神医療に携わってきた著者が教える「うつに強い人間になって、人生を楽しむための一冊」。

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