食欲低下が栄養不足、免疫力の低下を招く
高齢者の場合、うつ病の症状で重要なことの一つが、食欲低下です。
食欲がなくなると、もちろん食事量が減ります。これが栄養不足につながるのです。
高齢になるほど栄養不足の害は大きくなります。宮城県で行われた5万人規模の調査でも、やせ型の人の方が、やや太めの人より6~8年短命であることが分かっています。栄養不足は命を縮めるのです。
そうでなくても高齢になると食が細くなるのに、うつ病になると、その食欲が余計に落ちてしまいます。かくして、栄養不足が起こり、命を縮めてしまうことになるのです。
栄養が足りないと、体力も如実に落ちます。また、やせるとしわなどが増えて、容姿も一気に老け込んでしまいます。いろいろな意味で、うつ病は高齢者の元気を奪ってしまうのです。
栄養不足は免疫力も落とします。うつ病になると、肉類などを避けがちになりますが、肉に含まれるコレステロールも免疫細胞の材料となるため、免疫力までも落ちてしまうのです。さらに、コレステロールは男性ホルモンや女性ホルモンの直接の材料なので、その不足のために意欲や肌の若々しさも奪われてしまいます。
意欲の低下が、心身の衰えを加速させる
もう一つの問題は、うつ病による意欲低下です。
意欲低下が起こると、歩くことも含めて運動量が減ります。また、人と会うことを避け、頭を使わなくなります。実は、高齢になるほど、使わないことによる衰えは激しくなります。
若い頃なら、スキーで骨を折って1カ月寝たきりの暮らしをしていても、骨がつながれば翌日からすぐに歩くことができます。ところが高齢になると、風邪をこじらせて、1カ月ほど寝ていると、リハビリをしなければ歩けないほど、歩行力が落ちてしまいます。また、若い頃なら入院して天井だけを見ている生活をしていても、勉強を始めれば、すぐに能力が上がりますが、高齢者の場合、病気になって天井だけを見る生活をして人と話さないでいると、すぐにボケたようになってしまうのです。
3年以上にわたるコロナ禍で自粛生活をしていても、若い人なら足腰が衰えたり、頭がボケたりすることはありませんが、歳をとるほど、歩行が難しくなってしまった人やボケたようになってしまった人が多くみられます。
そういった意味でも、うつ病になって意欲が落ちて、歩かなくなったり、頭を使わなくなったり、人と話をしなくなったりすると、要介護状態になったり、ボケてしまったようになってしまう可能性が、高齢になるほど高くなるのです。
うつ病の悪循環が、要介護や認知症を招く
このように、うつ病を早期発見、早期治療しないと、神経細胞がボロボロになったり、悪循環を起こしてどんどん状態が悪くなったり、免疫機能が下がって感染症になったりします。さらには、長くうつ病にかかっているとがんになりやすくなったり、栄養状態も悪くなりヨボヨボになっていく上に、歩かなくなったり、頭を使わなくなるので、要介護や認知症に近づいてしまうのです。
だからこそ、周囲の人間のうつ病を、なるべく早く見つけてほしいし、見つけたいのですが、前述の松之山町のように保健師や精神科の医師が高齢者の多くに関わり、質問紙などを配るなどということは稀なことです。
残念ながら、うつ病の人は調子が悪いという自覚はしていても、うつ病だとは思わないし、自分から精神科医を訪ねる人は、特に高齢者では多くありません。そのため、周囲の人のチェックがとても大切になるのです。
セロトニンが減少して神経伝達がうまくいかなくなると、気分が落ち込みうつ病になります。薬の効果でセロトニンが増えると症状も改善します。
【今回のまとめ】
・70代前半までで5分前に聞いたことを忘れていたらうつ病の可能性が高い。
・うつ病という病気は、早期発見、早期治療が非常に重要。
・歳をとるほどうつ病の人が増えるのは、セロトニンが減少するせい。
構成/寳田真由美(オフィス・エム) イラスト/たつみなつこ