認知症と間違えやすい!高齢者のうつは気づかれにくい【精神科医・和田秀樹さんに教わる】

男性ホルモンの低下がうつ病を悪化させる

さて、うつ病になると性欲も低下することが知られています。高齢者の場合、もともと性欲が落ちているわけですが、これは男性ホルモンの分泌が減ることによると考えられています。

男性ホルモンが減ると意欲も低下するし、抑うつ状態も悪化します。これによって、やはり悪循環が起こるのです。

実は、うつ病の人の男性ホルモンを検査すると、たいてい、この値が低くなっているのですが、それを注射などで補充すると、ある程度、うつ状態が改善することは私も経験しています。

うつ病の悪循環は怖いもので、続いていくと、どんどんうつ病が重くなり、最終的に自殺ということは珍しくありません。高齢者の場合、他の病気で死ぬ人が増えるために自殺が目立たなくなっていますが、自殺者の4割が高齢者だという事実を忘れてはならないのです。

高齢者のうつ病の場合、セロトニンなどの不足が背景にあることが多いため、自然に治ることがきわめて少ない上に、いったんうつ病になってしまうと悪循環が起こって、悪化しやすくなります。そういった意味で、うつ病の早期発見、早期治療が必要なのです。

要介護リスクを高める高齢者のうつ病

高齢者のうつ病が自殺などの悲劇につながりかねないのは、イメージしやすいかもしれませんが、実は高齢者の場合、うつ病になってしまうと、自殺をしなくても、命を縮め、要介護や認知症につながりやすいという大きな問題があります。

最近、注目を集めている、精神神経免疫学の考え方では、うつ病になると免疫機能が下がるという大きな問題があります。免疫というと、風邪やインフルエンザ、あるいは、コロナなどに対する防御機能というイメージが強いかもしれません。実際、高齢になると免疫力が弱まるので、コロナどころか風邪をこじらせて亡くなる方も多く、肺炎で亡くなる人の95%は高齢者という統計もあります。

コロナ感染のリスクとして基礎疾患が問題になりましたが、私は最高に危険な基礎疾患はうつ病ではないかと考えたくらいです。うつ病によって、免疫力が下がると命取りであるというのは、そういう意味でも重要です。若い人や中高年であれば、うつ病で亡くなるというと自殺がほとんどですが、高齢者の場合は、うつ病にかかった後、このような感染症でなくなることがかなり多いのです。

それ以上に、がんにかかるリスクを高めるという問題もあります。実は、人間の身体は1日数万個の出来損ないの細胞を作っていて、高齢になるほど、この数が増えるとされています。

この出来損ないの細胞は放っておくと、どんどん増殖して、その一部ががんになるという説が強いのです。このがんのもとといえる出来損ないの細胞を掃除してくれるのが、NK(natural killer/ナチュラル・キラー=自然な殺し屋)細胞という免疫細胞です。

この細胞の名づけ親である順天堂大学元医学部長の奥村康特任教授によると、さまざまな免疫細胞の中で、いちばんメンタルの影響を受けやすいのがこのNK細胞だそうです。

オーストラリアの研究でも、うつ病になるとNK細胞の活性は半分に下がるとされています。

高齢者の場合、若い頃と比べて、そうでなくても若い頃の4分の1くらいにNK細胞の活性が落ちていますので、これは深刻な問題です。うつ病を放っておくと、出来損ないの細胞をNK細胞が掃除しきれなくなり、がんになってしまうリスクが高まるのです。そういう意味で、高齢者のうつ病というのは早期発見、早期治療をしないと、がんにもなりかねない病気だと言えるのです。これはもちろん命につながるものです。

 

<教えてくれた人>

和田秀樹(わだ・ひでき)先生

東京大学医学部卒業。精神科医。ルネクリニック東京院院長。高齢者専門の精神科医として30年以上にわたり高齢者医療の現場に携わる。近著『80歳の壁』(幻冬舎新書)は59万部を超えるベストセラー。他、著書多数。

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『65歳からおとずれる 老人性うつの壁』

(和田秀樹/KADOKAWA)

1078 円(税込)

幸福な高齢者になるには、65歳からおとずれる「老人性うつ病」の壁を乗り越えることが必須。30年以上にわたって高齢者の精神医療に携わってきた著者が教える「うつに強い人間になって、人生を楽しむための一冊」。

※本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

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