家族への感染を防ぐためにも。今こそ勉強しておきたい「ワクチン」の基礎知識

新型コロナウイルスのように、感染症は思わぬところで牙をむきます。O157などの細菌やはしかなどのウイルスは、これまで多くの命を奪ってきました。けれど、かつて猛威を振るった「天然痘」は、18世紀末のワクチンの開発とその後の普及で、20世紀には世界で根絶されました。そこで、年齢を重ねた私たちが、病気を封じ込めるために接種したいワクチンについて、国立感染症研究所の多屋馨子先生にお聞きしました。

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怖い病気はワクチンで封じ込める

「大多数の感染症にはワクチンはまだありません。ワクチンの開発ができない病気はたくさんあるのです。だからこそ、ワクチンで予防できる病気はワクチン接種で防いでいただきたい」と多屋馨子先生。

かつて大流行を重ねて多くの人の命を奪った天然痘は、18世紀末のワクチンの開発とその後の普及で、20世紀に世界で根絶されました。

ワクチンをうまく使うと病気を封じ込めることもできます。

感染症から身を守ると同時に家族へ感染させるのを防ぐ

ワクチンというと、毎年推奨されているインフルエンザ、65歳以上で5年ごとの肺炎球菌を思い浮かべる方もいるでしょう。

年齢によって異なりますが、例えば風疹のように、子どもの頃には定期接種の制度がなかった病気への感染や、水ぼうそうのように、過去の感染で体内にひそんでいたウイルスが暴走するようなことも起こります。

それらの感染症を防ぐためにワクチンが役立ちます。

「帯状疱疹、破傷風などは60代前後の方々の発症が多いので注意してください」と多屋先生は話します。

帯状疱疹は水ぼうそうのウイルスが再び暴れ出して、発疹や発熱、強い痛みの症状を引き起こします。

帯状疱疹は予防のためのワクチンがあり、水ぼうそうのワクチンでも予防ができるのです。

帯状疱疹でもウイルスは他人に感染します。

予防をすることが家族を守ることにもつながるのです。

「ワクチンは、病気予防と感染拡大を封じ込めるために重要です。ご自身は軽症でも、胎児に重篤な症状を引き起こす病気もあります。その代表が風疹です。排除には、多くの人がワクチンで風疹を予防することが重要なのです」と多屋先生。

妊娠20週頃までに風疹ウイルスに感染すると、胎児にも感染して、生まれてきた赤ちゃんが先天性風疹症候群という病気になり、さまざまな症状につながることがあります。

妊婦さんはワクチン接種ができないため、妊娠する前に2回、ワクチン接種を受けることが肝心。

また、男性は過去の定期接種の制度の関係で、風疹の抗体を持っていない人が多く、妊婦さんにとって脅威の存在になっています。

「ご自身の抗体()もチェックし、お孫さんや周囲の小さなお子さんをワクチンで守っていただきたいと思います」と多屋先生はアドバイスします。

人が多く集まる場所や、海外などでは感染症にかかる機会が多くなります。

海外旅行などの前には、感染症予防のためのワクチン活用の準備をしましょう。

ワクチンによっては、効果が現れるまでに数週間かかるものや、間隔を空けて2回の接種が推奨されているものもあります。

時間に余裕を持った計画が必要不可欠といえます。

「数種類のワクチンを左右の腕に一度に接種することも可能です。ただし、持病などがすでにある方は、事前に主治医に相談してから受けましょう」と多屋先生は注意を促します。

※大学病院や内科医院などで、抗体検査を行っているところもある。費用の目安は4,000 円程度(診療所によって異なる・保険適用外)。

1.そもそもワクチンとは?

感染症の予防に使用する薬のこと。

体内にワクチンで病原体の存在を知らせ、抗体などの武器を作っておくと、病原体が侵入してきても退治できます。

つまり、感染や発病、重症化を予防することができます。

ワクチンは予防の薬として欠かせない存在です。

ワクチンは病気に対する抵抗力を与える

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病原体を弱くするか、あるいは全くなくした病原体を体内にあらかじめ入れて武器を作るのがワクチン。接種することで予防に必要な抵抗力をつけます。

2.感染症とは?

ウイルスや細菌などの微生物が、体内に入って感染することで発症する病気。微生物の種類によって、発熱、せき、頭痛などさまざまな症状が出ます。

3.ワクチンの種類

生ワクチン
【作り方】病原体となるウイルスや細菌の毒性を弱め、病原性をなくしたものが原材料。
【接種回数】毒性を弱められたウイルスや細菌が体内で感染・増殖して免疫を高めていく。接種回数は少ない。十分な免疫が体内にできるまでに約1カ月が必要。

不活化ワクチン
【作り方】病原体となるウイルスや細菌の感染能力を失わせた(不活化、殺菌)ものが原材料。
【接種回数】自然感染や生ワクチンに比べて生み出される免疫力が弱い。接種回数は複数回(ワクチンによって異なる)。

4.ワクチンの接種法

注射

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【皮下注射】
日本ではほとんどのワクチンにおいて、皮下注射による接種が原則となっています。接種する部位は上腕か、大腿前外側部です。

【筋肉内注射】
HPV(ヒトパピローマウイルス)ワクチン、B型肝炎ワクチンを10歳以上で受けるとき、一部の狂犬病ワクチンなどは筋肉内注射です。

皮膚にスタンプを押すタイプのもの

BCGは、管針法(スタンプ方式)といわれる、上腕の2カ所にスタンプを押しつける方法で接種します。

飲むワクチン

現在、日本ではロタウイルスワクチンのみ、飲むタイプの経口ワクチンです(2020年1月現在)。


5.接種すべきワクチンはこれ!

●風疹
赤ちゃんを守るためワクチン接種を

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[主な症状]
発熱、発疹、リンパ節膨張(耳の後ろや首)

[かかりやすい年齢、性別など]
抗体を持っていない人、や抗体価が低い人

[感染経路]
主に飛沫感染や接触感染

[接種できる人]
1歳以上(持病がある人はかかりつけ医に要相談)

[ワクチンが効いている期間]
2回接種で風疹に一生かかりにくくなる

[およその費用]
定期接種は無料、自費は1万円前後

記事はこちら:年齢によって抗体の有無が違う「風疹」のワクチンとは?

●肺炎球菌
65歳以降の人は定期接種。持病のある人は主治医に相談

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[主な症状]
肺炎や髄膜炎などで命に関わる事態に

[かかりやすい年齢、性別など]
高齢者や乳幼児、免疫力が極度に低下した人

[感染経路]
飛沫感染。小児の鼻の奥には常在の可能性も

[接種できる人]
定期接種は65歳、70歳、75歳、80歳、85歳、90歳、95歳、100歳になる年度

[ワクチンが効いている期間]
5年以上

[およその費用]
定期接種は一部公費、自費は7,000円前後

記事はこちら:重篤な病気につながりやすい!「肺炎球菌」のワクチンとは?

●帯状疱疹
「帯状疱疹後神経痛」の予防に。50歳以上はワクチンを

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[主な症状]
体の半分の神経痛と神経に沿った赤い発疹・水疱など

[かかりやすい年齢、性別など]
高齢者、免疫力の低下した人で発症しやすい

[感染経路]
過去に水ぼうそうにかかった人が体内に持っている

[接種できる人]
50歳以上が対象

[ワクチンが効いている期間]
明確な答えはまだ出ていない

[およその費用]
1万円前後

記事はこちら:50歳以上は検討を。知っておきたい「帯状疱疹」のワクチン

●破傷風
庭いじりも感染リスク。抗体なしが多いので注意を

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[主な症状]
口が開けづらい、けいれんなど神経系の特有症状が出る

[かかりやすい年齢、性別など]
ワクチン接種を受けたことがない人や高齢者など

[感染経路]
傷口などから破傷風菌が入り込む

[接種できる人]
小児定期接種対象以外は任意接種になる

[ワクチンが効いている期間]
4~10年程度

[およその費用]
定期接種は無料、自費は7,000円前後

記事はこちら:ガーデニングをする人は要確認!「破傷風」のワクチンとは?

●百日咳
大人が赤ちゃんの感染源に。ワクチンで予防を

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[主な症状]
風邪症状。けいれん性咳の連続、呼吸困難

[かかりやすい年齢、性別など]
全年齢。重症化しやすいのは1歳未満の乳児

[感染経路]
飛沫感染や菌が付いた手指からの接触感染

[接種できる人]
小児の定期接種以外は任意接種

[ワクチンが効いている期間]
4回接種後は4~12年

[およその費用]
定期接種は無料、自費は7,000円前後

記事はこちら:赤ちゃんに感染させないために!「百日咳」のワクチンとは?

●インフルエンザ
薬の効かないウイルス登場。重症化予防でワクチン活用

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[主な症状]
高熱、頭痛、筋肉痛や関節痛、全身倦怠など

[かかりやすい年齢、性別など]
全年齢。乳幼児や高齢者は重症化しやすい

[感染経路]
飛沫感染。ウイルスが付いた手指から接触感染

[接種できる人]
65歳以上の高齢者は定期接種、ほかは任意接種

[ワクチンが効いている期間]
約5~6カ月

[およその費用]
1回3,500円前後(65歳以上は自治体によって異なる)

記事はこちら:効果は半年ほどなので、毎年接種が必要です。「インフルエンザ」のワクチンってどんなもの?

●おたふくかぜ
大人は合併症を起こしやすい。まずは抗体保有を調べよう

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[主な症状]
発熱、耳下腺や顎下腺などの腫れ、痛み

[かかりやすい年齢、性別など]
幼児。大人になってから発症すると合併症を併発しやすい

[感染経路]
飛沫やウイルスが付いた手指からの接触感染

[接種できる人]
1歳以上。かかりつけ医に相談を

[ワクチンが効いている期間]
2回接種で多くは生涯といわれています

[およその費用]
自費は5,000円前後。2回接種

記事はこちら:大人がなると大変なことに...「おたふくかぜ」のワクチンとは?


取材・文/安達純子 イラスト/かたおか朋子

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多屋馨子(たや・けいこ)先生

高知医科大学卒業。大阪大学医学部小児科学講座入局後、大阪市立小児保健センター、大阪大学医学部附属病院小児科などを経て、2001年国立感染症研究所へ。13年より現職。感染症撲滅のために尽力中。

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この記事は『毎日が発見』2020年3月号に掲載の情報です。

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