家族が「老人性うつ病」になったらやるべきこと。精神科医の和田秀樹先生が解説

うつ病の患者に言っていけないこと、接し方で知っておきたいこと

よくうつ病の患者さんに「頑張れ」という言葉を使ってはいけないといいます。確かにその通りで、頑張りたくても頑張れなくなってしまう病気がうつ病なので、頑張れない自分を責めてしまい、余計に落ち込んでしまう可能性が大きいのです。

ただ、うつの症状がそれほどひどくない状況ならば、できそうなことは自分でやらせてみることでいい方に働くこともあります。もともと患者さん自身が「頑張らなくちゃ」というのが口癖で、それほど重く受け取られないとか、「最近は頑張れなくてね」と本人がフランクに返答できる関係性であれば、言っていい場合もあります。いずれにせよ、いろいろな言葉をかけたときに、どう感じているかを普段より厳しくチェックしておくことは大切でしょう。

(1)うつ病の人へのNGワード

うつ病の人は、「自分は邪魔者だ」とか、「人に迷惑をかけている」と思っていることが多いので、「おじいちゃん(おばあちゃん)は生きているだけで嬉しい存在なのだ」と伝えて、家族の温かさを感じさせるというのも賢明な対応でしょう。元の状態を知る家族からすると、「これもできなくなった」「あれもやらなくなった」という姿を見て、哀しくなったり、イライラしたりする気持ちは分かります。しかし、例えばインフルエンザで熱を出している人に、いつも通りの状態を求める人はいないでしょう。相手は病気なのだということを忘れずに、「病気なのだから仕方がない」「おいしいものを食べて休んでもらおう」と接することが肝要です。

その他、NGワードを列挙しておきたいと思います。
・私だって、つらいのよ(本人が迷惑をかけていると思わせるのはNGです)
・ダラダラしてばかりいたら、余計悪くなるよ(「頑張れ」と言ってはいけないのと同じ理由です)
・いろいろと身体のことばかり気にして神経質すぎるよ(これは病気のせいです)
・もっと苦労している人もいるよ(患者さんを否定していることになります)
・パーッと遊んだら治るよ(そんな甘いものでない病気です)
・くよくよしないで(これも病気のせいです)
・たまには笑顔を見せて(これができないからうつ病です)
・買い物くらい行けば(行ってくれればいいでしょうが、行けないと余計落ち込みます)

(2)プレッシャーを与える言葉、判断を求める言葉もNG

「早く元気になってね」というのも優しい言葉のようで、本人にプレッシャーを与えることが珍しくありません。同様に「いつになったら治るのよ」もNGワードと言っていいでしょう。
夕食などで「何が食べたい?」と聞くのも危険です。このレベルの判断力もなくなってしまうのがうつ病の怖いところなのです。「鮭を焼いたので、夕飯は鮭でいい?」と提案型で尋ねるほうが無難です。

「ちょっと散歩に行かない?」「お茶でも飲みに行かない?」などと誘う声かけも注意が必要です。うつ病の回復期に、少しずつ外に連れ出そうというのならば、こういった声掛けは悪くないのですが、まだそこまで良くなっていない場合は、患者にとってかなりのプレッシャーになってしまいます。うつ病の人は、「行きたくないな」と思っていても「行かないと悪い」と思ってしまいがちだからです。風邪で発熱してだるくて動けない状態のときに、休むことのできない状態を想像してみてください。うつ病の人にとっては、それと同じぐらいつらいものなのです。

(3)否定的な言葉はNG。できなくても責めないことが大事

基本的には、否定的なことばはNGと考えてください。
うつ病の人は、子どもと違い、叱られることで矯正はできません。逆に自責の念が強くなるだけです。毎日のようにご飯を残してしまうとしても、「食べられなくてつらいね」といたわりのことばをかけるくらいで、ちょうどいいのです。「また、食べなかったの」という言葉はNGです。逆に食べられるようになったら、「食べられたね」と、喜んであげるのが望ましい対応です。ただ、それをあまり強調すると、食べることにプレッシャーを感じてしまうこともあるので要注意です。

いろいろと気をつけないといけないことが多いので、大変だと思われた方も多いでしょう。ただ、命がかかっていることなので仕方がないことをご理解ください。

とはいえ、若い人のうつ病と比べると、薬が効きやすいのが高齢者のうつ病の救いです。本人だけでなく、家族も、「いつまでたっても治らないのでは」と思うことの多い病気ですが、高齢者の場合は、数カ月のうつ状態の後に、嘘のように元気になることは珍しくありません。

とにかく焦らず、期待を持ち続けて、患者さんをなるべく刺激しないようにして待つことが大切なのです。ただし、本人の前では、あえて期待を示さないほうが得策でしょう。このような見守りと薬などの治療で、高齢者のうつ病は治ることが多いのですが、一方で再発をしやすい病気であることを忘れてはいけません。特にカウンセリングを受けていない場合は、かなり再発率の高い病気です。再発の場合も、早期発見・早期治療が原則です。そのチェックも家族の役割です。

また、高齢者のうつ病の場合は、加齢によるセロトニン不足が背景にあることが多いため、薬は医者が大丈夫と言わない限り、やめないほうがいいと思います。再発に早めに対応するためにも、薬を飲み続けるためにも、良くなったと思ってからも医者に通い続けさせるのが得策だと思います。

【今回のまとめ】

・家族が老人性うつ病かもと思ったら、まずは「異変を見逃さない」。
・うつ病に気づいたら、精神科か⼼療内科を受診させる。
・患者の代わりに医者選びや治療法を判断するのも家族の仕事。

構成/寳田真由美(オフィス・エム) イラスト/たつみなつこ

 

<教えてくれた人>

和田秀樹(わだ・ひでき)先生

東京大学医学部卒業。精神科医。ルネクリニック東京院院長。高齢者専門の精神科医として30年以上にわたり高齢者医療の現場に携わる。近著『80歳の壁』(幻冬舎新書)は59万部を超えるベストセラー。他、著書多数。

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『65歳からおとずれる 老人性うつの壁』

(和田秀樹/KADOKAWA)

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幸福な高齢者になるには、65歳からおとずれる「老人性うつ病」の壁を乗り越えることが必須。30年以上にわたって高齢者の精神医療に携わってきた著者が教える「うつに強い人間になって、人生を楽しむための一冊」。

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