【4】医者選びは家族の仕事
ここで、頑固な医者とそうでない医者の差が出てきます。例えば、患者の様子を報告して薬の変更を相談しても、薬の種類を変えてくれないような頑固な医者ならば、次の医者を探した方がいいでしょう。ポイントは、「医者選び」は家族の大切な仕事だということです。なぜなら、うつ病の患者さんには、次々と医者を選ぶ元気もありませんし、判断力も普段より落ちていることが多いからです。
ただし、例外もあります。あれこれと薬を試してみても、一向に効かないというケースです。その際に試せることがあります。男性の場合は、男性ホルモンや甲状腺ホルモンの量を調べる検査です。これらの数値があまりに下がっている場合は、多少、うつ病の薬を飲んでも、まったく症状が改善しない例も珍しくありません。こういったケースの場合、適切なホルモンの補充治療で症状が改善することも多いので、まずは担当医に検査をお願いすべきでしょう。女性の場合、検査データはあまり役立ちませんが、試しに男性ホルモンを薬などで増やすと、元気になることがあります。相談しても取り合ってもらえない場合は、次の医者を探すことをおすすめします。「医者選び」で、もう一つ問題となるのは、患者側の訴えを「素人の考え」と決めつける医者の存在です。例えば、物忘れと併せて、前述のようにいろいろな症状が急に起こっているので、「うつ病の薬を試してほしい」と希望しても、MRI検査で脳の萎縮が見られるから、認知症だと決めつける医者は、確かにいます。しかし、高齢者の場合、誰でも脳が萎縮するものなので、それだけで認知症と決めつけるべきではありません。また、認知症の初期には、2割くらいの患者さんがうつ病も合併するとされています。
しかし、治療によってうつ病が治り、初期の認知症だけになると、症状がかなり改善する例が多いのも事実です。ですから、うつ病の薬を試すだけ試してみるというのは決して間違った選択とは思えないのですが、頑固に聞き入れてくれない医者がいることは、私もときどき耳にします。
薬が効かないときに、通電療法(※)やTMS(経頭蓋磁気刺激治療)など、薬以外の治療法も試すことができるものですが、これも医者の積極性次第です。家族としては、できるだけいろいろな医者に当たってみて、いろいろと試してくれたり、調べてくれたりする医者を探すしかないように思います。家族がどれだけ熱心に動くか次第で、「医者選び」が変わると言えるのです。
※脳に電気刺激を与えて、うつ病などの精神疾患の症状を改善させる治療法。
【5】患者と医者の相性を確認
高齢者のうつ病に関しては、カウンセリング治療を行う医者は少ないものです。しかし、カウンセリングを大事にしている医者の方が、「患者に対して、どんな声掛けや接し方をすればいいのか」といった家族に対してのアドバイスも適切なことが多く、やはり貴重です。また、高齢者のうつ病の場合、職場復帰のスケジュールや休養の取らせ方が問題になることは多くありませんが、少なくとも、こういったアドバイスを家族にしてくれる医者は、信頼がおけると思います。逆にそうでない医師は、高齢者の治療に向いていない気がするので、あまりおすすめできません。もちろん、薬だけ出して、あまりカウンセリングをしない医者でも、「どのような薬の飲み方がいいか」「どのように休養させればいいか」などのアドバイスが的確な医師は、決して少なくはありません。
高齢者のうつ病の場合の医者選びの最大のポイントは、「実際に良くなっているか」と、「患者本人と医者との相性」です。家族から見ると「愛想の悪い医者」「積極的に薬などを変えようとしない医者」であっても、患者さんの具合が良くなっているのなら、やはり良い医者なのだと考えるべきです。また、世間で評判が良くなかったり、家族にきちんとした説明をしてくれない医者であっても、患者さんが気に入っており、「あの先生と話していると楽になる」という場合は、その医者に賭けてみるというのは賢明な判断だと思います。
ただし、いくら患者さんが気に入っていても、半年くらい通ってみて改善が見られない、逆に症状が悪くなっているようなら、医者を変えてみるという手はあると思います。
【医者選びは、家族の仕事】
うつ病の場合、「医者を探す」「医者を選ぶ」「医者とのやりとりをする」などは家族の役割と心得ておきましょう。