高齢者のうつが認知症より怖い理由【精神科医・和田秀樹先生が解説】

低血糖が脳のダメージを引き起こす

うつ病になって食欲が落ちた時の弊害は、高齢になるほど大きいものです。というのも、栄養が足りないことでの害が大きくなるからです。肉類を摂らなくなるとセロトニン不足が進みますが、例えば糖分の不足も、若い頃より脳のダメージになるようです。

現在、糖尿病は、アルツハイマー病のリスクを高める怖い病気とされていますが、私が勤めていた浴風会という高齢者専門の総合病院で3年分の解剖結果を調べたところ、糖尿病のない人の方がある人より、3倍もアルツハイマー病になりやすいことが分かりました。ところが、福岡県にある久山町の町をあげての研究では、糖尿病の人の方がそうでない人より2.2倍もアルツハイマー病になりやすいことが分かっているといいます。

なぜこんなに違うのだろうと不思議に思っていたのですが、浴風会での調査は、併設した老人ホームで行ったもので、糖尿病の人もそうでない人も生存曲線(生存率がどのように減っていくかを表した曲線のこと)が変わらないことが分かっていたため、糖尿病の人には積極的な治療をしていませんでした。ところが久山町では、原則的に全例治療を行っていたのです。

浴風会に勤務する糖尿病の医師に言わせると、糖尿病のある人に血糖値を正常にするための治療を行うと、低血糖を起こす時間帯がでてきて、意識がもうろうとしてボケてしまったようになってしまったり、失禁を起こしたりする人がたくさんでてくるそうです。しかし、そういう人の薬やインスリンを減らすと、正常な状態に戻るというのです。ここで私は、高齢者に対する低血糖の危険性を知ることになりました。

小学生でも、朝ご飯を抜くと学力が下がると言われてずいぶん経ちます。年齢に関わらず、血糖値が低いことは、脳になんらかのダメージがあるのでしょう。いずれにせよ、高齢期のうつ病で食欲不振が起こり、低栄養、低血糖の状態に陥ることは、若いとき以上にダメージが大きいと考えています。

高齢期のうつ病が老化を加速させる理由

高齢者のうつ病の特徴に、一気に老け込むということがあります。
俳優の高島忠夫さんがうつ病を告白して話題になったことがありましたが、当時、60代後半から70代の前半だったにも関わらず、すっかり老け込んだ姿を見て驚かれた方もいたかもしれません。それまでが若々しさのシンボルのような人だったため、余計にそう感じさせたのでしょうが。
一方で、更年期うつ病であることを告白したものの、いまでも若々しさを保っている木の実ナナさん(女優)のような人もいますので、治療での若返りも十分可能だと私は考えています。ただ、木の実さんは46歳頃の発症ということで、良くなってからの活動性によって若さを取り戻しやすかったということもあるのでしょう。

高齢者が、うつ病で老け込んでしまうのには、いくつか理由があります。
一つ目は、食欲が落ちることです。前述のように、歳を取るほど栄養不足の害が大きくなるのですが、ブドウ糖不足で頭がボンヤリする他、たんぱく質が不足すると皮膚の老化が進みます。髪の毛の材料もたんぱく質なので、髪が細くなったり、抜けやすくなったりして、一気に老け込んだ印象になります。カルシウム不足も起こりやすく、骨粗鬆症のせいで腰が曲がってしまうようなことがあると、さらに老けて見えるようになるでしょう。

危険な体重減少、外見を気にしないのもうつ病のせい

うつ病になると、脂っこいものも避けるようになり、やせていくわけですが、若い頃と違い、やせることで肌にはハリがなくなり、余計に老け込んでしまうのです。そうでなくとも、うつ病というのは、ダイエットをしていないにも関わらず、食欲不振のせいでやせていく病気ですから、知らず知らずのうちに身体が蝕まれ、どんどんと老化を進めてしまうのです。

40歳時点での平均余命を比べた場合、やせ型の人の方が小太りの人より、6~8年短いという研究結果もあります。中高年以降にやせることは、美容だけでなく、身体にも悪いので、私は中高年以降のダイエットはやめるべきと考え、『やせてはいけない!』(内外出版社)という本も出しているくらいです。

二つ目の原因に、外見をあまり気にしなくなることがあります。お洒落で有名だった人が服装を気にしなくなる、化粧もしないで外出する、というようなことが起こります。こういう場合、それだけでも一気に老け込むのですが、やせてしわが増えても、あるいは髪が一気に少なくなっても、一向に気にしなかったり、それらに対処しようとしないので、急速に老け込んでいくのです。

栄養にしても、見た目にしても、その他のアンチエイジング医学にしても、高齢者が若さを保つためには努力が必要ですが、それらをする気がなくなる、あるいは、そうしたくてもだるくてできなくなるのがうつ病なので、外見も身体も一気に老け込んでしまうのです。

 

<教えてくれた人>

和田秀樹(わだ・ひでき)先生

東京大学医学部卒業。精神科医。ルネクリニック東京院院長。高齢者専門の精神科医として30年以上にわたり高齢者医療の現場に携わる。近著『80歳の壁』(幻冬舎新書)は59万部を超えるベストセラー。他、著書多数。

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『65歳からおとずれる 老人性うつの壁』

(和田秀樹/KADOKAWA)

1078 円(税込)

幸福な高齢者になるには、65歳からおとずれる「老人性うつ病」の壁を乗り越えることが必須。30年以上にわたって高齢者の精神医療に携わってきた著者が教える「うつに強い人間になって、人生を楽しむための一冊」。

※本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

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