高齢者のうつが認知症より怖い理由【精神科医・和田秀樹先生が解説】

脳が萎縮しても、しっかりしている人とそうでない人の違い

うつ病はアルツハイマー病に限らず、認知症につながる病気であると考えられます。
私は、いまでも毎年100枚位の脳のMRI画像を見ますが、脳が委縮している割に、知的機能がしっかりしている人と、脳は大して縮んでいないのに、認知機能がかなり落ちている人がいます。

昔、浴風会に勤務していた時、年間100例ほどの解剖結果の報告を見ていたことがあります。その際も、解剖結果を見る限り、かなり重いアルツハイマー型変性があるにも関わらず、大して認知症の症状が出ていない人がいる一方、脳の変化は軽いのに、完全に認知症のようになっている人がいることを知りました。

おそらくは、普段から脳を使っている人は、脳が委縮していたり、アルツハイマー型の変性があったとしても、脳の機能はそれほど落ちなかったのでしょう。逆に、脳をあまり使わない生活をしていると、たとえ脳の萎縮や変性が軽くても、まるで認知症のような状態になってしまうのだと思われます。

うつ病になると、人との会話であれ、読書であれ、その他の活動であれ、脳を使うことがぐんと減ってしまうので、同じような脳の萎縮でも、認知症のようになるのが早いのでしょう。もちろんこれについては、治療をしてうつ病が治り、再び頭を使うようになると、かなり知的機能が戻る可能性が高いのですが、そうでないとそのまま認知症になってしまいます。

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うつ病によるセロトニン不足が認知症を招く

うつ病で脳内のセロトニン不足が続くと、神経栄養因子という物質が減るために、脳の神経細胞が弱っていきます。その状態が続くと、神経細胞が最終的に変性してしまい、本当に認知症になってしまうのでしょう。実際、うつ病は認知症の重大なリスクファクターとされています。

「うつ病が認知症より怖い」と言いながら、うつ病が認知症の原因になると書くのは矛盾のように思われるかもしれませんが、健康な人が認知症を発症するよりも、うつ病の人の方が、これまで書いてきたような弊害が多いのは確かなことです。

私が多くの高齢者向けの本を書いているのは、ただ長生きできればいいというのでなく、なるべく高齢者に元気でいてほしいという視点から、そのヒントになるような本を書き続けています。また、精神科医の立場からQOL(Quality of life=生活の質)を上げてもらい、日々、「幸せだ」「楽しい」と感じて生きていけるということも、私のいろいろな本の重要なテーマです。
「なるべくがまんしない」とか、「楽しいことをやる」というのも、その一環です。
ところが、うつ病というのは、高齢者の元気やQOL、主観的な幸せなどを一気に奪うものです。

ということで、認知症以上にうつ病は避けなければいけない、予防しないといけないものですし、もしかかったとしたら、早めに治療を受けてほしいのです。

【今回のまとめ】

・認知症は怖くない。なぜなら本人の幸福度が意外と高いから。
・うつ病で注意すべきは意欲・食欲の減退と不眠。
・うつ病は免疫細胞の活性を低下させ、がんのリスクを高める。

構成/寳田真由美(オフィス・エム) イラスト/たつみなつこ

 

<教えてくれた人>

和田秀樹(わだ・ひでき)先生

東京大学医学部卒業。精神科医。ルネクリニック東京院院長。高齢者専門の精神科医として30年以上にわたり高齢者医療の現場に携わる。近著『80歳の壁』(幻冬舎新書)は59万部を超えるベストセラー。他、著書多数。

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『65歳からおとずれる 老人性うつの壁』

(和田秀樹/KADOKAWA)

1078 円(税込)

幸福な高齢者になるには、65歳からおとずれる「老人性うつ病」の壁を乗り越えることが必須。30年以上にわたって高齢者の精神医療に携わってきた著者が教える「うつに強い人間になって、人生を楽しむための一冊」。

※本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

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