高齢者のうつが認知症より怖い理由【精神科医・和田秀樹先生が解説】

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この記事は月刊誌『毎日が発見』2023年7月号に掲載の情報です。

認知症にまつわる誤解

高齢者医療を行っていたり、多くの高齢者とお話をする機会が多い私の経験では、高齢者の不安や恐怖の中で最も大きいものに、認知症があります。ボケたくない、認知症にだけはなりたくないという人がやたらと多いのです。

ただ、高齢者専門の精神科医としての長年の経験から言うと、「認知症になるか、うつ病になるか、どちらかを選べ」という究極の選択を迫られたら、間違いなく、私は認知症を選ぶでしょう。

実は認知症は、少なくとも本人にとっては、それほど不幸な病気ではありません。楽しいことも忘れますが、嫌なことを忘れられるし(特に、最近起こった嫌なこと)、いろいろなことが気にならなくなります。実際、認知症が進むほど、ニコニコする高齢者は多いのです。一日中、ニコニコする可愛いおじいちゃん、可愛いおばあちゃんになるわけです。初期こそ、自分が認知症になってしまったことを悲しんだり、苦しんだりすることも珍しくありませんが、中期以降は自分が認知症だという意識がないものです。いわゆる病識(病気であるという自覚)がないということです。自分の知的機能の衰えに苦しまないのです。というこ
とで、本人の主観的には、どちらかというと幸せになれる病気とさえ言えるのです。

認知症でも活躍し続けたレーガン大統領

しかし、人に迷惑をかけるのではないかという考え方もあるでしょう。一つ言っておきたいのは、認知症は急に何もできなくなる病気ではないということです。

アメリカのロナルド・レーガン元大統領は、退任の5年後の1994年に、自分がアルツハイマー病であることとその病状を、国民に対する手紙という形で告白しました。発表の際には、すでにまともな会話ができないレベルだったそうで、その1年前に妻のナンシーが自宅にホワイトハウスの執務室を再現したのに対して、自分が大統領として執務をしていると思い込んでいたということです。その後、10年も生きていたのですから、進行は遅いタイプの認知症だと考えられます。ということは、告白の5年前の大統領在任中も、物忘れ程度の認知症の初期症状は出現していたことでしょう。実際、次男のロンは2011年出版の回顧録の中で、1984年の前副大統領ウォルター・モンデールとの討論会において、父の異変に気がついたと指摘しています。つまり、大統領在任中の後半は認知症であった可能性もあるのです。

ここで申し上げたいのは、認知症といっても軽いうちであれば、大統領さえも務まるということです。日本の法律では、認知症と診断されると運転免許が失効されますが、症状が軽いうちなら運転もできます。逆に運転しなくなると認知症が進んでしまうと言われていますし、私の臨床経験からもこれは納得できます。

 

<教えてくれた人>

和田秀樹(わだ・ひでき)先生

東京大学医学部卒業。精神科医。ルネクリニック東京院院長。高齢者専門の精神科医として30年以上にわたり高齢者医療の現場に携わる。近著『80歳の壁』(幻冬舎新書)は59万部を超えるベストセラー。他、著書多数。

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『65歳からおとずれる 老人性うつの壁』

(和田秀樹/KADOKAWA)

1078 円(税込)

幸福な高齢者になるには、65歳からおとずれる「老人性うつ病」の壁を乗り越えることが必須。30年以上にわたって高齢者の精神医療に携わってきた著者が教える「うつに強い人間になって、人生を楽しむための一冊」。

※本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

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