高齢者のうつが認知症より怖い理由【精神科医・和田秀樹先生が解説】

「寝た気がしない」は典型的なうつの症状

さらに夜も眠れなくなります。一般的な不眠では「就眠(入眠)障害」といって、寝つきが悪くなります。この場合は、精神安定剤などを使うと眠くなり、そのまま寝つくことができます。これらの薬は睡眠導入剤と呼ばれます。

それに対してうつ病の不眠は、「熟眠障害」といい、眠りが浅く、夜中に何回も目が覚めたり、「早朝覚醒」といって夜中の3時や4時に目が覚めてそのまま眠れないというパターンが基本的です。この場合、寝たはずなのに疲れがとれず、「寝た気がしない」「ちゃんと眠りたい」という訴えになります。これもつらいものでしょう。一般的な睡眠導入剤は、寝つきを良くしても眠りを深くするものではないので、薬で寝つくことができるようになっても、眠りの浅さは改善せず、寝た気がしない状態が続くのです。

その他、いろいろなことが楽しめなくなります。ゲームをしても、お笑い番組を見ても、楽しいと思えないし、笑えないのです。以前、演出家のテリー伊藤さんと対談した際に「うつ病というのは、美人の看護師さんに優しくしてもらえば治るような病気ではないんですか?」と問われたことがあります。そのときの私の答えは「うつ病というのは、美人の看護師さんに目の前で裸になられても、性欲がわかない病気です」と答えたことを覚えています。うつ病になると性欲もわかないし、それ以外のことでも人生が楽しめなくなるのです。

人に優しくされれば治るというものではなく、それを喜ぶこともできないし、さらに迷惑をかけていると罪悪感のようなものを覚えてしまう病気なのです。いろいろな意味で、うつ病というのはかかってしまうとつらい病気です。

ここが、本人は苦しむことのあまりない認知症との大きな違いです。

ここまで書いてきた事情から、認知症と高齢者のうつ病を多く診てきた私は、どちらを選ぶかと言われたら、認知症を選ぶと答えたわけです。

命を縮めてしまううつ病の怖さ

もう一つの怖さは、うつ病が人間の命を奪うことです。

今も日本では毎年2万人以上の方が自殺で亡くなっています。15~39歳の死因のトップは自殺です。高齢になるほど他の病気で亡くなる人が増えるのでその順位は下がりますが、歳をとるほど自殺する人の数は増えるのです。

欧米では心理学的剖検(ぼうけん)といって、自殺した人の生前の言動などを分析して、その人が心の病にかかっていなかったかどうかを調査することがあります。すると、自殺をした人の5~8割がうつ病だったという結果が出ています。その位うつ病は人の命を奪うのです。高齢者のうつ病は、それ以上に人の命を奪ったり、縮めたりします。

現在の精神神経免疫学の考え方では、人間の心の状態と免疫機能はリンクしていると考えられています。要するに、うつ病になると免疫機能が下がるのです。

人間にはNK(natural killer/ナチュラル・キラー=自然な殺し屋)細胞といって、身体の中でできた出来損ないの細胞を掃除してくれる免疫細胞がありますが、うつ病になることでその活性が下がることも分かっています。出来損ないの細胞を掃除しきれないと、その一部が増殖していき、がんになってしまうのです。つまり、うつ病はがんになるリスクを高める病気と言えます。

高齢者のうつが認知症より怖い理由【精神科医・和田秀樹先生が解説】 2307_P53-055_03.jpg

引きこもりや心身の衰弱うつから要介護状態へ

高齢者にとって、うつ病がもたらすリスクは、要介護状態になりやすいということもあります。

今回のコロナ自粛で、約3年にわたる自粛生活が続いたわけですが、かなりの数の高齢者が、ほとんど外出しないような生活を送ったようです。患者さんの家族に聞く限り、そのせいで歩けなくなったとか、ボケたようになってしまったという人は少なくありません。おそらく、今後、かなりの数の高齢者が要介護状態になるのではないかと、私は心配しています。

同じように、うつ病になると、多くの人は家に引きこもり、ほとんど外出しなくなります。会社に勤めている間は、身体がだるく、つらい状態でも出勤するために外に出る人も少なくないでしょう。

しかし、高齢になって会社などに行く義務がなくなれば、外出しなくなることは珍しいことではありません。ところが若い人と違って高齢者の場合は、歩かない日が続くと歩けなくなるし、頭を使わない日が続くとボケたようになります。つまり、高齢者がうつ病になると、身体や脳の衰えが急に進み、先々、要介護高齢者になるリスクが高まってしまうのです。もちろん、要介護状態になると、その後不自由な生活を余儀なくされますし、余命も縮まることが分かっています。このようにうつ病が長く続くと、その後の生命の質が大幅に落ちるという問題があります。

【うつ病になると】
睡眠障害や意欲・食欲の低下などの症状が進行すると、命に関わることも。

 

<教えてくれた人>

和田秀樹(わだ・ひでき)先生

東京大学医学部卒業。精神科医。ルネクリニック東京院院長。高齢者専門の精神科医として30年以上にわたり高齢者医療の現場に携わる。近著『80歳の壁』(幻冬舎新書)は59万部を超えるベストセラー。他、著書多数。

61ddlHZOjIL._SL1500_.jpg

『65歳からおとずれる 老人性うつの壁』

(和田秀樹/KADOKAWA)

1078 円(税込)

幸福な高齢者になるには、65歳からおとずれる「老人性うつ病」の壁を乗り越えることが必須。30年以上にわたって高齢者の精神医療に携わってきた著者が教える「うつに強い人間になって、人生を楽しむための一冊」。

※本ページはアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

この記事に関連する「健康」のキーワード

PAGE TOP