体に余分な水分をためないセルフケア
夜間頻尿を改善するためには、日常のちょっとした生活習慣を見直すことも必要だと髙橋先生は言います。
「当大学の吉澤剛先生がある研究を行いました。夜間頻尿に悩む100人の患者さんを2つのグループに分け、一方には減塩を心がけた食事、夕方の散歩、早めの夕食と入浴など、複合的に生活習慣の改善を指導。もう一方には『水の飲み過ぎに注意』程度の説明にとどめたのです。結果、生活習慣の改善を丁寧に指導し実践したグループの患者さんは、夜間にトイレに起きる回数が明らかに減りました。この論文は学会でも発表され、高く評価されています」
《6つの生活習慣が効く》
①飲む水分は1日1500ml
1日の水分摂取量は、食事で摂る水分の量をのぞいて1500mlが目安です。健康な成人の1日の尿量が1000~1500mlなので、これを超えた量の水分を摂ると、必然的に尿量が多くなります。
②足を少し高くして15分横になる
昼間、クッションなどに両足をのせて横になりましょう。下半身にたまった水分が上半身に戻り、足のむくみを予防できます。寝転がったまま本を読んだりしてリラックスを。昼寝するときは夜の睡眠の妨げにならない程度に。
③アルコール・カフェインを控える
利尿作用があり、飲んだ量以上の水分が尿になります。また、膀胱を刺激して活発にするので、頻尿につながります。特に寝酒は夜間頻尿を招くので避けましょう。
④塩分を摂り過ぎない
塩分を摂るとのどが渇くので、自然と水分摂取量が増えます。さらに私たちの体は体内の余分な塩分を尿で排出しようとするため、塩分が増えると尿量も増えてしまいます。
⑤入浴は寝る3時間前までに
水分が排出されるまでには2~3時間かかります。入浴は血流を改善し、足に水圧がかかるのでむくみがやわらぎますが、足にたまった水分が尿として出やすくなります。
⑥体重を5%落とす
膀胱が内臓脂肪に圧迫されると、重さに耐えかね頻尿になることも。肥満が気になる人は、食生活の改善や運動に取り組みましょう。目標はいまの体重の5%の減量です。
詳しい記事はこちら:入浴は寝る3時間前まで! 「夜間頻尿」を改善したいときに見直すべき6つの生活習慣
【次ページ:ウォーキングは「夕方」がおすすめ!? 「夜間頻尿」のためのトレーニングとマッサージ】
適度な運動で水分をためこまない
体内の水分を排出するためには、体を動かすことも大切です。
「夜間頻尿の原因である足のむくみをとるためには、スクワットや速歩きをしてみましょう。スクワットはちょっと時間があるときに手軽に行えます。〝腰をおろしてひざを伸ばす〟という単純な動作ですが、ゆっくり行うと効果的です。腰やひざが痛い人はあまり無理しないでください。大股でスタスタ歩く速歩きもいいですね。最近は早朝にウォーキングをする人が多いですが、夜間頻尿対策には夕方がおすすめ。運動が苦手なら、ふくらはぎをマッサージしましょう」(髙橋先生)
むくみとり以外の体操も教えてくださいました。
「骨盤の底にある〝骨盤底筋〟は、膀胱、直腸、子宮などを支えている筋肉で、尿道と肛門を締める役割を担っています。ここを鍛えることで、頻尿や尿漏れなどさまざまな尿トラブルが解消できます」(髙橋先生)
《スクワット》
加齢などで低下した下半身の筋力をアップさせましょう。ふくらはぎのポンプ作用が高まり、むくみの解消につながります。スクワットは室内の限られたスペースで行える効率の良いエクササイズ。1日10回を目安にして。
やり方
1.足を肩幅に広げて立ち、両手を前に伸ばします。
2.ゆっくり腰を落としたら、次にひざを伸ばします。
《夕方の速歩き》
下半身の水分を上半身に戻す効果が期待できます。また、汗をかくので余分な水分を体から排出できるのも◎。ふつうに歩くよりも、軽く息がきれる程度のスピードで大股で歩くのが効果的。夕方に30分程度行いましょう。
正しいフォーム
詳しい記事はこちら:ウォーキングは「夕方」がおすすめ!? 「夜間頻尿」のためのトレーニングとマッサージ
夜間頻尿は加齢とともに増加する
年を重ねてから就寝後のトイレ頻度が増えたという人も多いようです。
加齢と関係があるのでしょうか。
「夜間頻尿のおもな原因は3つです。①夜間の尿量が増える〝夜間多尿〟、②膀胱に少しの尿しかためられない〝膀胱蓄尿障害〟、③眠りが浅く軽い尿意でも目が覚めてしまう〝睡眠障害〟。全て加齢が原因とは言い切れませんが50歳をすぎてから悩まれる方が多いのは事実です」(髙橋先生)
放置するとどうなるのでしょう。
「慢性的な睡眠不足になり、日常生活に支障をきたすことも。また、高齢者が夜中に何度もトイレに行けば、転倒や骨折の危険も高くなります。さらに〝夜間頻尿の高齢者は死亡リスクが高まる〟という研究結果もあります。夜間頻尿が直接の死因ではありませんが、排尿回数が増える原因に心不全や糖尿病、高血圧などが隠れている可能性もあるのです。たかが頻尿と甘く見てはいけません」(髙橋先生)
《睡眠中の排尿をコントロールするしくみ》
抗利尿ホルモンの働きで、ふつうは寝ている間の尿量は減ります。
【脳】尿量を減らす働きをする抗利尿ホルモンは、脳の視床下部でつくられ下垂体から分泌されます。抗利尿ホルモンが腎臓に働きかけ、夜間の尿量を減少させます。
【腎臓】抗利尿ホルモンが腎臓に働きかけ、夜間の尿量を減少させます。
つまり通常は夜間は排尿しなくてもいい
⇒快眠!
《夜間頻尿が起きる3つの理由》
1.多尿・夜間多尿
水分の摂り過ぎや足のむくみ、加齢にともない抗利尿ホルモンの分泌が減少することなどがおもな原因。
[多尿とは...]
1日の尿量が「体重×40ml=□ml」を超えたら「多尿」
(例)体重50kgの人なら2000ml以上
[夜間多尿とは...]
1日の尿量のうち夜間の尿量が33%以上あること。
【改善法・治療法】
適切な水分量を摂ること。足のむくみを防ぐこと。
詳しい記事はこちら:加齢と共に増加...。高齢者の死亡リスクが高まる「夜間頻尿」なぜ起こる?
【まとめ読み】特集「夜間頻尿を治して快眠!」記事リストはこちら!
取材・文/湊 香奈子 イラスト/木波本陽子