中高年になるとぐっすり眠れないのはなぜ? 危ない睡眠と良い睡眠の違いを、脳内科医が解説

危ない睡眠のポリグラフ

下にあるのは、眠れないといって私のクリニックを受診した50歳の男性の睡眠ポリグラフの結果です(本人の承諾を得て掲載)。睡眠ポリグラフとは、脳波や心電図、動脈血酸素飽和度、いびきなどの生体活動を測定する検査です。縦軸の「Wake」は目覚めた状態で、「REM」はレム睡眠、N1からN3が睡眠の深さ、横軸は検査した時間帯を示します。

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このグラフを見ると、明らかに睡眠障害と診断できます。

2回検査したため、睡眠の深さの結果が1回目(上段)と2回目(中段)の2例あります。1回目の結果について説明すると、総記録時間は7.5時間。中途覚醒を除く睡眠時間は4.8時間で、睡眠効率は64.3%です。睡眠効率が悪く、睡眠の質がかなり悪いことがわかります。睡眠効率は、最低80%以上、本来は90%以上が目標です。睡眠効率を80%以上にするには、トイレなどで起きる中途覚醒を可能なかぎりゼロに近づけることが大切です。

睡眠時無呼吸が頻発しているため、無意識の中途覚醒が頻発し、血中酸素飽和度が異常に低い状態です。健常者の、日中安静時の動脈血酸素飽和度は96%から99%を示します。この男性は、平均が93.3%で、最低値83%ですから、眠っている間、日中よりも低酸素状態におかれていることになります。

90%以下の酸素飽和度になるまで息をこらえるというのは、簡単なことではありません。83%というのはあり得ない数字で、この人は睡眠中、一時的に死んだような状態になっているともいえます。本来なら体のすみずみまで酸素を行き渡らせて休息をとるはずの睡眠が、日中以上に脳と心身にストレスがある状態です。これは大問題です。

実際、睡眠外来を訪れる患者さんには、「寝るのが怖い」「寝たのに朝起きても疲れがとれていない」「休んだはずなのに朝から体が硬い」と訴える人が少なくありません。原因は、夜間の低酸素状態によるものです。

無呼吸を起こすたびに心拍数が上昇し、体幹が緊張するため、朝になると、背骨や足腰のこわばりが生じます。運動系の仕組みに影響を与える睡眠時の無呼吸は、パーキンソン病の発症確率が増加することも報告されています。

睡眠効率がたったの50%!

この50歳の男性の場合、2回目の入眠潜時が20分でした。通常は、睡眠不足の人は、かなり眠い状態で布団に入るため、入眠潜時が5分以内の方が多く、1〜2分であっという間に寝入る人がほとんどです。

しかし、寝不足を訴えて受診しているにもかかわらず、彼は夜11時2分に床に就きながら、睡眠効率が非常に悪く、ノンレム期のN3は驚くべきことに0%です。徐波睡眠(ノンレム睡眠の中でもN3の深い眠り)がないということは、記憶力の悪化や認知機能の低下を引き起こすリスクが増加します。

1時間あたりの無呼吸の回数は10回なので、軽症といわれるレベルですが、睡眠時間の27.8%を占めるレム睡眠期の無呼吸指数は、23.3回。これは中等症レベルです。

ノンレム睡眠中は、眠りが深いため、自然に舌を支える筋肉の緊張が低下します。そのため上気道を取り囲む筋肉が虚脱しやすくなり、気道をふさぎがちになります。近年は、この「ノンレム睡眠期無呼吸」が睡眠研究者の間でも問題視されています。

しばらく期間をおいてから、再度、睡眠ポリグラフ検査を行いました(中段のグラフ)。結果は変わらずN3は0%、睡眠効率は50.9%で、朝3時から4時すぎまで断眠が起こっていました。

 

加藤俊徳(かとう・としのり)
神奈川歯科大学大学院統合医療学講座特任教授
総合内科専門医・医学博士

新潟県生まれ。脳内科医、医学博士。加藤プラチナクリニック院長。 株式会社「脳の学校」代表。昭和大学客員教授。発達脳科学・MRI脳画像診断の専門家。脳番地トレーニングの提唱者。小児から超高齢者まで1万人以上を診断・治療。14歳のときに「脳を鍛える方法」を知るために医学部への進学を決意。1991年、現在、世界700カ所以上の施設で使われる脳活動計測「fNIRS(エフニルス)」法を発見。1995年から2001年まで米ミネソタ大学放射線科でアルツハイマー病やMRI脳画像の研究に従事。ADHD、コミュニケーション障害など発達障害と関係する「海馬回旋遅滞症」を発見。帰国後、帰国後、慶應義塾大学、東京大学などで脳研究に従事し、「脳の学校」を創業。

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※本記事は加藤俊徳著の書籍『中高年が朝までぐっすり眠れる方法』(アチーブメント出版)から一部抜粋・編集しました。

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