正論は絶対に言ってはいけない。アンガーマネジメントのプロが教える、怒っている人への対処の基本

すべての言葉を受け止める必要はない

「普通」「常識」「当たり前」と言われても、それは言っている本人にとってのものであって、こちらの普通、常識、当たり前ではありません。

前述したように、怒っている人の言葉で聞かなければいけないのは、あるいは受け止めなければいけないのは事実のみです。

相手が気を悪くしていることについて、そう思ってしまったことを残念に思ったり、怒りを感じていることに共感するのは良いことです。でもそれは相手の言い分を全面的に聞くということではありません。

相手の言っていることに一部でも正しいところがあるからといって、何とか言う通りにしてあげようと思う気の優しい人は要注意です。そんなことをしていれば、言われっぱなしになってしまいます。

強く怒ってくる人は、良くも悪くも、これまでに強く怒ることで得をしたことがある、上手くいくはずという思い込みがあります。そういう思い込みがあるので、下手に出るよりも高圧的に言った方が効果があると信じて、そう行動しているのです。

その人に対して、威圧的な態度に出ることで効果があることを改めて認めさせてしまうと、エスカレートしてしまいます。なぜなら人は、過去の成功体験に執着するからです。今後も付き合いがある人であれば、なおさらそう思わせるのはNGです。

「べき」と事実のギャップを説明しよう

怒りの火種となる「べき」などを見つけることができたら、その「べき」と事実との間にどういう違いがあるのかを丁寧に説明することです。

「前もって説明するべきだろ!」であれば、実はインターネット上のここにアクセスすると説明があったのですよと事実を説明します。それに対して、そんなものは普通見ない、見せるつもりがないのだろうという言い方をしてきたら、それでも、お客様に知っていただくための方法としてインターネット上のここにありますと、事実を繰り返すのです。ただ、少なくともその人はそれを見つけることができなかったので、見つけられなかったこと、そのことで怒っていることについては理解を示します。

この時に気をつけたいのが、決して正論を言わないことです。この場合の正論は「インターネット上に書いてあるものを読んでいないあなたが悪い」です。

事実を伝えることと正論を言うことは違います。事実は「インターネット上に書いてある」であり、正論は「それを読んでいないあなたに落ち度がある」です。事実は相手を責めませんが、正論は相手に責を負わせることになります。

怒りをぶつけられている側は、特にこちらに落ち度がなければ、つい正論を言いたくなります。ところが、怒っている人にとって正論はさらに怒りを大きくするものにしかなりません。

なぜなら、怒っている側も正論を理解したとしても、それを差し置いても怒りたいと思っているからです。今更正論を言われて、振り上げた拳を下ろすことはできません。

正論が正しいことは明白ですが、人はいつでも理屈通りに動くというわけではありません。正しくないとわかっていても、正しくないことをするのが人です。

正論は相手への共感を拒むものです。相手がどう思っていようが、感じていようが、正しいのはこれですというのが正論です。正論には取り付く島がありません。正論を言われると、こちらの言うことを聞いてくれない、わかってくれないんだというサインとして受け取ります。

リクエストのある人も、リクエストのない人も、怒っている人に共通していることは、「この怒りをわかって欲しい」という思いです。

怒りをぶつけられる側としては、「あなたの言っていることは事実ではないかもしれないが、少なくとも不愉快に感じている、怒りを感じていることはわかります」と共感を伝えることが基本です。

何も問題は解決しなくても、実はわかってもらえたという思いだけで、拳を下げる人もいるのです。

 

安藤俊介
一般社団法人日本アンガーマネジメント協会ファウンダー。新潟産業大学客員教授。アンガーマネジメントコンサルタント。怒りの感情と上手に付き合うための心理トレーニング「アンガーマネジメント」の日本の第一人者。アンガーマネジメントの理論、技術をアメリカから導入し、教育現場から企業まで幅広く講演、企業研修、セミナー、コーチングなどを行っている。ナショナルアンガーマネジメント協会では15名しか選ばれていない最高ランクのトレーニングプロフェッショナルにアジア人としてただ一人選ばれている。主な著書に『アンガーマネジメント入門』(朝日新聞出版)、『私は正しい その正義感が怒りにつながる』(産業編集センター)等がある。著作はアメリカ、中国、台湾、韓国、タイ、ベトナムでも翻訳され累計65万部を超える。

※本記事は安藤俊介著の書籍『怒れる老人 あなたにもある老害因子』(産業編集センター)から一部抜粋・編集しました。

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