従業員を高圧的に攻撃し苦しめる「カスタマーハラスメント(カスハラ)」。コロナ禍を経てますます増加したカスハラから従業員を守るため、企業は早急な対策を求められています。犯罪心理学者の桐生正幸氏は、著書『カスハラの犯罪心理学』(集英社インターナショナル)で、豊富な調査実績をもとにカスハラが起こる理由とその対策を提案。いまや社会問題化しているカスハラの事例を通し、従業員や自身の心を守る方法、そして「客」としての自分自身を見つめなおしてみませんか。
※本記事は桐生正幸著の書籍『カスハラの犯罪心理学』(集英社インターナショナル)から一部抜粋・編集しました。
土下座を強要する"お客様"たち
土下座強要の逮捕劇
2013年10月、札幌市内に住む当時40代の女性が「強要」の疑いで逮捕された。
逮捕の1カ月前、女性は午後6時ごろに札幌市東区の衣料品店にやってきた。その手には前日にその店で購入したタオルケットが握られている。女性はパートの従業員を見つけると、凄まじい剣幕で詰め寄った。
「この店で買ったタオルケットに穴が空いていた!」
従業員はタオルの穴を確認すると謝罪して、返品を受けつけることにした。購入金額を返金したが、それでも女性の怒りは収まらない。
「店に来るのに使った交通費を返せ!」
なんと、女性はさらに金を要求してきたのだ。
クレームにはきちんと対応しているため、これは過度の要求になる。店長代理も加わって対応し、店の規定で払うことはできないと2人は女性に説明した。要求を突っぱねられ、女性はますます怒り狂うと、怯(おび)える従業員2人を怒鳴りつけ、なんと土下座を要求した。
2人は驚いたが、女性は本気のようだ。さらに詰め寄られ、怒鳴られる。他のお客も怯えている。これ以上長引かせては業務にも差し障るし、タオルケット代では済まない被害が出るかもしれない。2人は膝を折り、地べたに震えながら手をついた。土下座をする頭上では、写真を撮るシャッター音が鳴り響いた。
女性は、2人の名前を確認すると、その画像とともに店の悪評をSNSに投稿。さらに、自宅まで謝罪に来るよう要求した。
従業員たちが警察に被害届を出したことにより、この女性は逮捕された[「週刊現代」2013年10月26日号]。