【本作を第1回から読む】インターンシップは「スタンプラリー化」している!? 参加率87.6%の学生が「本当に知りたいコト」
『静かに退職する若者たち』 (金間大介/PHP研究所)第4回【全5回】
1on1をして少し経ったころ、部下が前兆なしに退職をした...そんな話を聞いたことはありませんか? 若者たちが退職する裏には、彼らの世代特有の悩みが隠れているかもしれません。金沢大学融合研究域融合科学系教授の金間大介氏は、著書『静かに退職する若者たち』にて、若者目線からこの問題に向き合い、上司や先輩の課題に寄り添いました。新卒や第二新卒の入社を控えたいま、世代間における価値観の差や求められるスキルについて考えてみませんか。
※本記事は金間大介著の書籍『静かに退職する若者たち 部下との1on1の前に知っておいてほしいこと』(PHP研究所)から一部抜粋・編集しました。
仕事・勉強をもっと楽しむポイントは「フィードバック」
ミハイ・チクセントミハイという心理学者をご存じだろうか。
一見、野比のび太を想起させるような名前だが、素晴らしいといった言葉では形容できないほどの知の巨人のひとりだ。僕も含めて、多くの研究者が彼の研究結果やプロセスをお手本の1つとしている(残念ながら2021年に亡くなりました)。
チクセントミハイは、人が究極的に集中力を発揮する状態を調べ上げ、その状態を「フロー」と名付けた。そして、フロー状態に没入する条件として、明確かつ瞬時のフィードバックの存在を挙げている。
先の問い─人はなぜゲームに夢中になるのか─の答えも、このフローで説明できる。ゲームの画面には、様々なバロメーターが表示されており、自分の操作に対し視覚、聴覚らの情報として瞬時にフィードバックを返してくれるからだ。
「現代における最強のフィードバックの使い手は、ゲーム・クリエイターたちじゃないか」と先に述べたが、もはや僕の目には、彼らが作っているのはゲームではなく、優れたフィードバック・システムに他ならないように映る。
ゲームに限らず、周りの環境が自分の動作に対して即座にフィードバックを返してくれるとき、人はその世界に入り込むことができる。そうして周辺の環境と一体感を持ち、それらをコントロールできていると感じたとき、人は強い有能感を感じる。
逆にそれを壊す要因として、単調な行為が連続することによる「退屈」や、周囲の環境やものごとに対しコントロールを失ってしまうという「心配」がある。退屈も心配も、極めて日常的な用語だが、ここはあえて「 」でくくる。重要な専門用語だ。
皆さんも思い当たることがたくさんあるのではないだろうか。「心配」の方は特に。
自分ではどうしようもないと感じることに対する、過度で過多な心配の存在により、全く集中できなくなるような状態だ。
「フローは、行為者をその活動に完全に没入させてしまう働きがあり、その瞬間、その活動は絶えず挑戦を提供する」
(ミハイ・チクセントミハイ『楽しみの社会学』今村浩明訳、新思索社、P.65より)
。
フローを説明する秀逸の一文だ。
つまり、人がチャレンジを楽しむことができないのも、フィードバックが足りてないと考えることができまいか。
仕事も勉強も、正確なフィードバックを返すことができれば、もっと楽しむことができるのではないか。
この概念は「ゲーミフィケーション」と呼ばれ、多くの人が興味を持ち研究が進められている領域だ。意欲的に研究している人がたくさんいるが、社会的に広く普及させるには、まだ少しパワーが足りない印象だ。
ゲームこそ、世界が認める日本のお家芸。レーシング・シミュレーターすらゲームにしてしまう国だ。ゲーム・クリエイターの皆さん(そしてその卵の皆さん)、何とかなりませんか?
皆さんのフィードバックに関するスキルとアイデアで、勉強も、仕事も、ゲームに変えてくれませんか?
日本の平日を休日に。休日は休日のままに。何とかなりませんか。