正論は絶対に言ってはいけない。アンガーマネジメントのプロが教える、怒っている人への対処の基本

怒りの火種「マイナスの感情・状態」を探そう

次に探すのは怒りの火種になっているマイナス感情・状態です。マイナス感情・状態を見つけることで、怒っている側が自分は理解された、わかってもらえたという気持ちが強くなり、結果、怒りの炎が小さくなるからです。

例えばマイナス感情の中でも「不安」は誰にとっても結構大きなものです。不安がガスになっていると思えるのであれば、その不安がなんであるかを理解し、その不安を消すことができないか考えてみます。

高齢者にとって「孤独感」は怒りの大きなキーワードの一つです。孤独感の強い人は話を聞いて欲しいのにコミュニケーションが上手ではないことが多いので、怒りをぶつけることで誰かと接しようとします。逆にそれくらいしか他の人と関わる方法が思い浮かばなくなっています。

怒りをぶつけられる側からすれば迷惑以外の何物でもないのですが、そうしたコミュニケーションしかとれないから孤独感を強めてしまっているとも言えます。

例えば、孤独感が強そうに見える人であれば、話をさっさと切り上げるのはNGです。寂しいからあれこれ言ってくるのですから、ある程度は時間をとって、相手の言い分を聞くことです。そうすることでマイナス感情である孤独感が満たされますから、怒りの炎は小さくなります。

不安がマイナス感情になっているようであれば、その不安が何かを聞き、一緒にその不安が消せないかを考えてみます。わからないところがわからないから不安になって怒っている人は思いの外多いものです。そのわからないところを一緒に整理するだけでも、不安を小さくすることはできます。

怒っている高齢者を見て、この人は疲れているんだろうなと思えたら、「疲れ」はマイナス状態ですから、「お疲れのところわざわざ来てもらってすみません」とねぎらいの言葉をかけます。ねぎらいの言葉をかけたからといって、相手の不当な要求をのむことにはなりません。

つまり、マイナス感情・状態を小さくしたいのならばマイナス感情・状態に寄り添う姿勢を見せることがポイントです。

先程の例で言えば、話を聞いたからといって孤独感が一瞬でなくなることもなければ、不安が消えてなくなるわけでもありません。ねぎらわれたところで疲れが本当にとれるわけでもないかもしれません。

しかし、少なくとも相手は自分の気持ち、状態に理解を示し、寄り添ってくれていると受け取ります。人は自分のことを受け入れてくれる人には好意を示し、自分を拒絶する人には敵意を持ちます。

怒っている人に対処する時、自分に敵意がないことを示すのは得策です。そのためには相手のマイナス感情・状態に少なくとも寄り添っているという姿勢を見せることは大きなポイントになります。

最後に「関わる必要があるのか、ないのか」を判断する

さて、ここまできて怒っている人の全体像が見えてきました。まずリクエストがあるのかどうか、どのような「べき」が裏切られて怒りの火種が生まれたのか、そしてその火種のガスとなったマイナス感情・状態はどのようなものであるかを確認しました。

そして次が最後のステップです。それは結局のところ、この怒っている人に「関わる必要があるのか、ないのか」判断することです。

当たり前のことですが、私達にはできることもあれば、できないこともあります。また、したいこともあれば、したくないこともあります。

人生にはいろいろな面倒事がつきものですが、それら全てに関わっていたらどれだけの時間があっても足りません。物理的に全部に関わることはできないですし、その必要もありません。

ではどうすればいいかと言えば、関わる必要があるのかどうかを判断して、関わる必要のあることだけに力をかけて関わることです。

例えば、公共の場でいきなり誰かに怒られたとして、その人が何かを言ってきています。それが完全に言いがかりであって、こちらに何の非もなかったとします。ではその人に言い返して、その人が勘違いをしていることを訂正するための時間と労力をかけてまで、関わりたいでしょうか。

気持ちとしては釈然としないものがあるかもしれませんが、人生に理不尽なことはいくらでもあります。たまたまめぐり合わせが悪かったと思い、その場からすぐに立ち去った方が自分のためになると思います。

「いや、自分としてはその理不尽には全て立ち向かいたいんだ。理不尽なことを言ってきた相手には、見ず知らずの人であろうが論破して、いかにその人が間違っているかをわからせたいんだ」と強く思っているのであれば、関わることは止めません。ただ、それをしていても疲れるだけでしょう。

怒りを専門に扱うアンガーマネジメントには「ビッグクエスチョン」といって、何かを選択する時にいつも基準にする質問があります。

ビッグクエスチョンは次のものです。

「自分にとって周りの人にとって長期的に見た時に健康的か?」

その選択が自分だけでなく、周りの人も含めて、長い目で見た時に、心身ともに健康的な選択肢になっているかを考えることが、ムダに怒りに振り回されないために用意されている質問です。

嫌な気持ちになったとしても、これに関わることがビッグクエスチョンに沿ったものになるのであれば、それは歯を食いしばってでも関わった方がよいものです。

逆に関わることがビッグクエスチョンに沿った選択肢にならないのであれば、それは手を放した方がよいものです。

最終的にあなたが何に関わるのか、関わらないのかを決めるのは自分ですが、その判断基準にアンガーマネジメントのビッグクエスチョンをぜひ置いて考えてみて下さい。

 

安藤俊介
一般社団法人日本アンガーマネジメント協会ファウンダー。新潟産業大学客員教授。アンガーマネジメントコンサルタント。怒りの感情と上手に付き合うための心理トレーニング「アンガーマネジメント」の日本の第一人者。アンガーマネジメントの理論、技術をアメリカから導入し、教育現場から企業まで幅広く講演、企業研修、セミナー、コーチングなどを行っている。ナショナルアンガーマネジメント協会では15名しか選ばれていない最高ランクのトレーニングプロフェッショナルにアジア人としてただ一人選ばれている。主な著書に『アンガーマネジメント入門』(朝日新聞出版)、『私は正しい その正義感が怒りにつながる』(産業編集センター)等がある。著作はアメリカ、中国、台湾、韓国、タイ、ベトナムでも翻訳され累計65万部を超える。

※本記事は安藤俊介著の書籍『怒れる老人 あなたにもある老害因子』(産業編集センター)から一部抜粋・編集しました。

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