『怒れる老人 あなたにもある老害因子』 (安藤俊介/産業編集センター)第3回【全3回】
「老害」という言葉を目にする機会が増えました。周囲に何らかの迷惑を与えやすい年長者のことを意味するとされ、高齢者と呼ばれる年齢ではなくとも、「老害」にはなり得ます。歳を重ねて丸くなりたいはずが、なぜ「老害」となってしまうのでしょうか。『怒れる老人 あなたにもある老害因子』の著者で、一般社団法人日本アンガーマネジメント協会ファウンダーの安藤俊介氏は「怒りっぽくなるのも、ならないのも自分で選ぶことができる」と言います。本稿で「人はなぜ怒るのか」を知り、「丸く、穏やかになる未来」について考えてみませんか。
※本記事は安藤俊介著の書籍『怒れる老人 あなたにもある老害因子』(産業編集センター)から一部抜粋・編集しました。
怒る人への対処の基本
怒る側の基本は相手に今どうして欲しい、これからどうして欲しいという「リクエストを相手が気持ちよく聞いてもよいという状態になるように伝えること」でした。それを踏まえた上で、次は怒っている人への対処の基本をお伝えします。
「敵を知り己を知れば百戦殆うからず」とは中国の兵法書『孫子』の一節です。敵の現状を知り、自分のことをわきまえていれば、100回戦っても負けることはないという意味です。戦い方の指南書として長く語り継がれているものですが、怒っている人に向き合う時にもこの考え方はとても有効です。
怒っている人に向き合う時、怒っている人のことを観察しないまま、また、自分が何をできるのかもわからないまま向き合おうとしても上手くはいきません。
怒っている高齢者と上手に付き合うには、まずは怒っている高齢者を観察することから始めましょう。そして次に自分に何ができるのかを理解して、現実的にできることだけに注力していきましょう。
まずは怒る側に本当はあるはずのリクエストが何かを見つけます。ただ、前述したように、多くの人は自分のリクエストが本当のところ何なのかわからずに怒っています。もしくは不当な要求をしてきています。
ここで明確に相手のリクエストがあり、それを聞くことが妥当だと思えるのであれば、そのリクエストに応えられれば、話はそこで終了です。相手もリクエストが通ることで納得しますし、こちらも納得できます。
問題はリクエストがなんだかよくわからない場合、あるいは不当な要求の場合です。その時は、その人がなぜ怒っているのか紐解いてみます。
まず怒ってる人の「べき」を探そう
怒っている人は、まず「べき」が裏切られ怒りの火種が生まれ、そこにマイナス感情や状態のガスが加わることで、大きな怒りの炎を上げているのでした。ということは、怒っている人の「べき」、マイナス感情・状態を知ることで、怒っている人への対処ができそうです。
怒っている人の怒りの火種となっている「べき」を見つけるのは結構簡単です。なぜなら、怒っている人は「べき」を言葉の中に実際に使っていることが多いからです。この「べき」は先に説明したように、「はず」「普通」「常識」「当たり前」といった言葉にも置き換えることができます。つまり、そうした言葉を使っていないかよく聞けばいいのです。
「べき」などの言葉は、自分が思う理想、期待、欲求などを表している言葉であって、事実ではなく、本人の思い込みの言葉です。
ここに怒っている人が言いそうな一例を挙げてみます。
「前もって説明するべきだろ!」
「そんなはずない!」
「普通、言わなくてわかるもんなんだよ!」
「そんなことも知らないなんて常識がない!」
「お客が言っているんだから、言うこと聞くのが当たり前だろう!」
例えば「前もって説明するべきだろ!」には、事前に説明して欲しい、事前に説明するのが当たり前だという本人の理想や期待が込められていますが、本人の希望通りにそれを事前に説明する必要があったかどうかは別問題です。また、もしかしたら事前に説明はしてあったのですが、それを見つけることができなかったのかもしれません。あるいはインターネット上には説明があるのですが、そこへのアクセスの仕方がわからないか、わかったとしても、いちいち読むのが面倒だったのかもしれません。
「そんなはずがない!」は、例えば電気屋さんで特典をもらう時に以前は身分証明書が不要だったのに、今は必要になっていたとします。以前はそんなものを提示しなくてももらえていた。だから今だって身分証明書の提示は必要がないはずだ、という言い分です。以前は身分証明書がいらなかったのが本当であったとしても、仕組みが変わり、今は身分証明書の提示が必要になっていたら、「そんなはずがない!」と言われても、それはもうそうではないのです。