口内炎とは、口内の粘膜にできる炎症の総称です。頬や唇の内側、舌、上あごなど口内のあらゆる粘膜に炎症を起こす可能性があり、食事をすることがつらくなったり、人と会話をすることがおっくうになったりするなど、痛みや不快感でQOL(生活の質)を低下させます。口内炎といっても原因はさまざま。それぞれ治療方法が違うので、原因に合った治療をすることが大切になります。
さまざまな口内炎の原因、症状、治療法、予防法などを、鶴見大学歯学部附属病院口腔機能診療科准教授の中川洋一先生にお聞きしました。
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アフタ性口内炎と見た目が似ている口腔がんの症状とは?
最も一般的な口内炎はアフタ性口内炎ですが、そのほかに外傷性口内炎、アレルギー性口内炎、真菌やウイルス、細菌などの微生物に感染することで発症する口内炎など、原因によってさまざまな口内炎があります。
ほとんどの口内炎は深刻なものではありませんが、なかには重大な病気が疑われる場合があります。どのような病気が隠れているのでしょうか?
「初期の口腔がんはアフタ性口内炎と見た目が似ているので、よく観察することが重要です。次のような症状が出ている場合は、すぐに口腔外科、耳鼻咽喉科、歯科を受診することが大切です」(中川先生)
このような症状があった場合は要注意です。
・2週間以上治らない
・表面がでこぼこしている
・赤い部分と白い部分が混在している
・病変しているところと正常なところの境目が不明瞭
・潰瘍部になった部分が硬い
・患部が徐々に大きくなる
・初期は痛みを伴わない(ケースが多い)
口腔がんを確定診断するためには局所麻酔の後に、患部の組織の一部を切り取って、がん細胞の有無を調べる病理検査をします。診断がつけば、がんの深さや広がりを調べるために触診し、CTやMRIなどの画像検査を行います。舌にできたがんはその広がった範囲によって切除範囲が決まります。切除範囲が広いと、舌を再建しても味覚障害が残ったり、術前のように話すことが難しくなる場合があります。
また、口の中の粘膜が厚く白くなる「白板症(はくばんしょう)」は、口腔がんの前段階といわれ、がんが発生しやすい組織です。粘膜が白色に見えますが、その厚みはさまざまです。歯ブラシによる摩擦、合わない義歯、歯で頬の粘膜を噛むなど、原因が明らかな場合は、同じような症状でも白板症ではありません。
「白板症はすべてががん化するわけではありませんが、赤色が混在する場合は悪性との関連性が高いといわれています。がんやがんの前の症状を口内炎だと思って見逃してしまうのが一番の問題なのです。自分の目でよく観察して、粘膜が白く厚くなっている、もしくは赤色が混在する場合は早めに受診してください」(中川先生)
白板症の対処方法は、ある程度の確率でがん化することを前提にすべて切除する場合と、一定以下の確率でしかがん化しないので経過観察のみを行う場合があり、医師の考え方によるところがあります。どちらにしても長期の経過観察が必要な症状です。
似たような症状には「カンジダ性口内炎」や「ニコチン性口内炎」があります。「ニコチン性口内炎」は、その名の通り慢性的な喫煙が引き起こす症状で、たばこの化学物質と熱による刺激が原因の口内炎です。痛みはありませんが、主に上あごの粘膜の上皮が角化して厚くなる症状が出ます。
「カンジダ性口内炎は『扁平上皮がん』などの悪性腫瘍を発生するリスクがあるため注意が必要です。リスクが高いタイプは『肥厚性カンジダ症』と呼ばれるものです。慢性のカンジダによる刺激で、粘膜が厚くなり白色の状態になっています」。(中川先生)
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取材・文/古谷玲子(デコ)