いつものウォーキングを少し工夫することで、とっても効果的になるってご存じですか? それは、「早歩き15分+ゆっくり歩き15分」を週4回行う「15分早歩き」。個人の最大体力の「70%相当の負荷」で行う「早歩き」を15分組み込むだけで、体の不調を防ぐだけでなく、若返り効果も期待できるのだそう。今回は、信州大学 特任教授の能勢 博(のせ・ひろし)先生に、「15分早歩き」について教えていただきました。
早歩きを組み込むだけで体力向上、筋力がアップ
健康維持のためにウォーキングをしている方は多いですが、近年の研究で、単に歩くだけでは、ほぼ効果はないと分かっています。
体力向上に効果的なのは、ウォーキングに早歩きを組み込む歩き方です。
開発した能勢博先生によると、加齢に伴い筋力は衰えるといいます。
「目には見えませんが、筋肉は老化により徐々に衰えます。例えば、見た目に脚が太い人でも、年をとるほど筋肉はだんだんと萎縮して小さくなります。太く見えているのは、筋肉が脂肪に置き換わっているだけです」。
筋肉が小さくなり筋力が低下すると、動くことが億劫になって動かなくなり、さらに筋力が衰え、次第に日常生活が困難になり、寝たきりのリスクも高まります。
早歩きを組み込む歩き方は、個人の最大体力の70%相当の負荷で行う"早歩き"と、普通の"ゆっくり歩き"を交互に行うだけと、いたってシンプルです。
続けることで、筋力と持久力が向上し、体力年齢が若返ることが分かっています。
「早歩きの利点は、いつでも、どこでも、安価にできること。負荷が高い運動は継続が難しいですが、ややきついと思う早歩きとゆっくり歩きを繰り返す歩き方ならば、個人のペースで続けられます。コツは、もうちょっと歩けると思うところでやめること。また歩きたいという気持ちが続きやすいでしょう」と、能勢先生。
次から紹介する効果的な歩き方を真似して、早歩き&ゆっくり歩きを始めてみませんか?
1.「15分早歩き」の効果的な歩き方
早歩きとゆっくり歩きを繰り返します
目標:早歩き15分+ゆっくり歩き15分を週4回!
"ややきつい"スピードが体を変えます
詳しい記事はこちら:体力年齢が若返る! 医学博士が教える「15分早歩き」のススメ
2.「15分早歩き」のための準備体操「歩く前後は、体をほぐしましょう」
まずは上半身を伸ばす
《肩・腕・肩甲骨》
頭の上で両手を組む。手のひらを上に向け、腕を少し後ろに押し上げる。脚は肩幅に開く。
《体側》
右手で左手首を握り、両手を頭の上に上げる。そのまま右手で左手を引っ張りながら、体をゆっくり右へ倒す。反対側も同様に行う。こちらも脚は肩幅に開いてください。
《胸・肩》
両手を背中の後ろで組み、胸を張る。余裕があれば、腕を少し上へ押し上げ、軽く顎を引く。
詳しい記事はこちら:「20~30秒、ゆっくり伸ばす」がポイント! 医学博士が教える「ウォーキング前の準備体操」
3.「15分早歩き」の健康効果
【健康効果①】5カ月間で「体力年齢、マイナス10歳」
5カ月間にわたり、早歩きトレーニングと、1日1万歩の歩行トレーニングの効果を比較した実験によると、早歩きをしたグループは、ひざを伸ばすための筋力が13%、ひざを曲げるための筋力が17%、運動持久力が10%向上。
体力年齢でいえば、10歳若返ったことになります。
一方、1日1万歩のグループでは、体力の向上はほぼ見られませんでした。
なぜこれほど差が出たのかというと、普通のスピードで歩く1日1万歩の歩行トレーニングでは、運動強度が低過ぎて筋力が増加せず、運動持久力もアップしなかったと考えられます。
ややきついと感じる運動をして初めて、体力が向上します。
【健康効果②】5カ月間で「生活習慣病が改善」
加齢で筋肉が衰えると、筋肉の中に存在するミトコンドリア(※)が元気をなくして活性酸素をたくさん作り出し、細胞を傷つけます。
すると、体の中で慢性炎症が起こり、糖尿病や高血圧などの原因に。
「ややきつい早歩きを続けると持久力と筋力がアップ。ミトコンドリアが元気になり、炎症を起こしにくくさせて症状も改善します」(能勢先生)。
実際、5カ月間早歩きをした全てのグループで生活習慣病指標が下がりました(下図)。
※細胞の中に含まれ、有機物からエネルギーを取り出す働きをし、独自のDNAをもつ小器官。
※実験で能勢先生が使用した独自の「生活習慣病指標」は、「血圧」(最高血圧130mmHg以上、または最低血圧85mmHg以上)、「空腹時の血糖値」(100mg/dL以上)、「肥満」(BMIが25以上)、「脂質異常」(中性脂肪150mg/dL以上、またはHDLコレステロール40mg/dL以下)の四つの項目を設け、悪い場合には1点ずつ加算し、4点を最大値とするもの。中高年の女性468人(平均年齢64歳)が参加し、「高体力」「中体力」「低体力」のチームに分けて、平均値をグラフ化した。
出所:Morikawa M et al.( 2011) Br J Sports Med 45: 216-224.
詳しい記事はこちら:体力年齢が若返る! 「15分早歩き」の9つの健康効果
4.まずは3か月!「15分早歩き」を続けるコツ
●小分けに歩いてもOK
まとめて歩く時間が取れない場合は、何回かに分けて行っても大丈夫です。
下の例のように「朝、昼、夕と3回に分けて、9分ずつ歩く」など、1日の早歩きの合計が15分以上になれば効果はあります。
時間を計るには、キッチンタイマーやスマートフォンのタイマー機能を使ってアラームが鳴るようにすると良いでしょう。
(例えば)
朝:早歩き2分+ゆっくり歩き1分×3回
昼:早歩き2分+ゆっくり歩き1分×3回
夕:早歩き2分+ゆっくり歩き1分×3回
⇒ウォーキングの合計27分のうち早歩き計18分(朝、昼、夕の各6分)
●歩くコースを選ぶ
単調な道を歩き続けるのは、飽きてしまうもの。
また、トレーニングのために歩くと考えると苦痛という人もいることでしょう。
遊歩道やジョギングコースを歩いたり、調子がいい日は坂道を上り下りしたり、変化をつけることも長く続ける秘訣の一つ。
時には、札所巡りや七福神巡りなど、イベントを作って歩くのもおすすめです。
●記録をつける
「歩いた日の記録をつけると、モチベーションを高めることに役立ちます」と、能勢先生。
体重や血圧、体調に変化はあったか、1週間でどれだけ歩いたかを記すことで「頑張りを見える化」できます。
「早歩き記録表」をコピーして使うもよし、自分なりのノートを作るのも楽しいです。
詳しい記事はこちら:まずは3ヶ月を目標に! 病気を遠ざける「15分早歩き」を続けるコツ
5.医学博士に聞いた「15分早歩き」Q&A
「ゆっくり歩きの時間が早歩きより長くなっても良いですか?」
1日の早歩きの時間が合計15分以上になれば効果があるので、あいだに挟むゆっくり歩きが長くなってもかまいません。また、早歩きの時間を計るのが難しい場合は、"だいたい3分間"で大丈夫です。自分のペースで歩いてください
「ひざが痛むときは動きたくありません。休んでいいですか?」
早歩きは、関節痛の改善に効果があるので、無理のない範囲で、できれば行った方が良いでしょう。運動しないと、筋肉の萎縮が進みさらに症状が悪化します。ストックを持って歩くと自然と大股になり、体が前に出てラクに歩けます
「週に4日も時間が取れません」
平日は忙しくて時間が取れないという人は、週末にまとめて歩いても問題ありません。例えば、土曜日に早歩きを30分、日曜日に早歩きを30分といった具合です。1週間の早歩きの合計時間が60分以上になればちゃんと効果は出ます
「1日1万歩歩くようにしています。長く歩いた方がいいですよね?」
残念ながら、ラクなテンポでたくさん歩くだけでは、体力向上は期待できないことが分かっています。自分のペースでいいので、早歩きとゆっくり歩きを繰り返しながらのウォーキングに挑戦してみてください。自然と体力がアップします
詳しい記事はこちら:「1日1万歩」より「早歩き15分」がいいの? 医学博士に聞いた「15分早歩き」Q&A
取材・文/笑(寳田真由美) 撮影/西山輝彦 イラスト/ノダマキコ モデル/永谷佳奈