いつものウォーキングを少し工夫することで、とっても効果的になるってご存じですか? それは、「早歩き15分+ゆっくり歩き15分」を週4回行う「15分早歩き」。個人の最大体力の「70%相当の負荷」で行う「早歩き」を15分組み込むだけで、体の不調を防ぐだけでなく、若返り効果も期待できるのだそう。今回は、信州大学 特任教授の能勢 博(のせ・ひろし)先生に「15分早歩き」の健康効果について教えていただきました。
【15分早歩きのやり方】体力年齢が若返る! 医学博士が教える「15分早歩き」のススメ
【健康効果①】5カ月間で「体力年齢、マイナス10歳」
5カ月間にわたり、早歩きトレーニングと、1日1万歩の歩行トレーニングの効果を比較した実験によると、早歩きをしたグループは、ひざを伸ばすための筋力が13%、ひざを曲げるための筋力が17%、運動持久力が10%向上。
体力年齢でいえば、10歳若返ったことになります。
一方、1日1万歩のグループでは、体力の向上はほぼ見られませんでした。
なぜこれほど差が出たのかというと、普通のスピードで歩く1日1万歩の歩行トレーニングでは、運動強度が低過ぎて筋力が増加せず、運動持久力もアップしなかったと考えられます。
ややきついと感じる運動をして初めて、体力が向上します。
【健康効果②】5カ月間で「生活習慣病が改善」
加齢で筋肉が衰えると、筋肉の中に存在するミトコンドリア(※)が元気をなくして活性酸素をたくさん作り出し、細胞を傷つけます。
すると、体の中で慢性炎症が起こり、糖尿病や高血圧などの原因に。
「ややきつい早歩きを続けると持久力と筋力がアップ。ミトコンドリアが元気になり、炎症を起こしにくくさせて症状も改善します」(能勢先生)。
実際、5カ月間早歩きをした全てのグループで生活習慣病指標が下がりました(下図)。
※細胞の中に含まれ、有機物からエネルギーを取り出す働きをし、独自のDNAをもつ小器官。
※実験で能勢先生が使用した独自の「生活習慣病指標」は、「血圧」(最高血圧130mmHg以上、または最低血圧85mmHg以上)、「空腹時の血糖値」(100mg/dL以上)、「肥満」(BMIが25以上)、「脂質異常」(中性脂肪150mg/dL以上、またはHDLコレステロール40mg/dL以下)の四つの項目を設け、悪い場合には1点ずつ加算し、4点を最大値とするもの。中高年の女性468人(平均年齢64歳)が参加し、「高体力」「中体力」「低体力」のチームに分けて、平均値をグラフ化した。
出所:Morikawa M et al.( 2011) Br J Sports Med 45: 216-224.
[慢性炎症]
加齢などで体力が低下すると、体の中で炎症反応が起こります。脳細胞で慢性的な炎症反応(慢性炎症)が起こると認知症の原因に、免疫細胞で起こると動脈硬化にというように、病気のリスクが高まります。
【健康効果③】5カ月間で「認知機能も向上」
運動持久力の向上は、認知機能の改善にも役立ちます。
軽度認知障害(MCI)(※)の人を対象に、早歩きが認知機能に及ぼす影響について5カ月間の変化を調べたところ、早歩きを続けたグループの人は、運動持久力が6%、認知機能にいたっては34%も向上。
早歩きを続けることで運動持久力が上がり、頸動脈(心臓から脳へ血液を送る血管)が柔らかくなって脳への血流が良くなったことで、認知機能が改善したと考えられます。
※認知症の前段階のこと。日常生活に支障はありませんが、認知機能の低下がみられます。
【健康効果④】6カ月間で「骨年齢が若返る」
ややきつい早歩きは、骨粗鬆症の改善にも効果があります。
50歳以上の女性の場合、何も運動をしていないと、1年間で骨密度が頸椎(首の骨)で0・4%、大腿骨頸部(脚の付け根辺り)で0・6%低下します。
50歳以上の女性を対象に、6カ月間、早歩きを続けた調査によると、頸椎、大腿骨頸部ともに骨量がアップ。
骨年齢が2歳程度若返りました。
これは、早歩きによる骨への負荷が大きいために骨密度が上がったと考えられます。
「平坦な道より、坂道や階段を歩く方が骨年齢は若返りそうです。坂道では、心持ち早歩きする程度でかまいません。平坦な道でのややきつい運動と同程度の負荷になります」(能勢先生)。
《50歳以上の女性が6カ月間早歩きすると骨年齢が2歳程度若返った》
第2-4頸椎で0.9%、大腿骨頸部で1.0%の骨量が増加。骨年齢にすると、2歳程度若返ったことになる。実験は、50歳以上の女性119人(平均年齢68歳)を対象に行った。
【健康効果⑤】5カ月間で「ひざ痛が良くなる」
下図は、5カ月間早歩きを行い、ひざの関節痛が良くなったかどうかを調査したものです。
なんと約半数の人が改善を実感。
「常に体が痛む人は、痛みを避けることばかり考えてしまいがちです。そういう人が早歩きをしてみると、"あれっ、意外と平気"と思うことが。すると、痛いという思い込み回路が切断され、"痛くない"という新しい回路が上書きされます。それで、痛みの症状が良くなったと考えられます。まずは歩くことをおすすめします」(能勢先生)。
ひざの関節痛と早歩き
※中高年者946人を対象に、5カ月間のトレーニング(早歩き&ゆっくり歩き)の膝関節痛への効果を検証したもの。腰、肩、首についてもほぼ同様の結果が得られている。
出所:岡崎和伸ほか(2008) 体育の科学 58: 51-57.p20
【健康効果⑥】5カ月間でうつ病が改善する
早歩きのトレーニングを続けると、性格が明るくなり、うつの改善にも効果を期待できます。
能勢先生らは、長野県松本市に暮らす700人余りの中高年を対象に「うつ自己評価尺度」という心の健康度を測るアンケート調査を実施。
5カ月間の早歩きトレーニングの前後で、「うつ自己評価尺度」の点数がどのぐらい変化するのかという実験を行いました。
すると、「うつ自己評価尺度」は50%も低下。
うつ病などのメンタル不調は、精神安定剤などに頼らなくても、早歩きトレーニングで十分改善できる余地があると分かったのです。
【健康効果⑦】5カ月間で「良い睡眠がとれる」
先のうつ病に対する実験の際、「うつ自己評価尺度」で得点の高い人の多くが、不眠を訴えていたそうです。
そこで、早歩きのトレーニングを5カ月間行い、トレーニング前後に睡眠の質と運動持久力を測定。
体力のある人ほど、朝まで途切れることなく眠っていられることが分かりました。
早歩きで体力をつけることは、睡眠の質を上げることにもつながるのです。
体内時計を整えることにも有効だと能勢先生。
「夜眠れない人は、日中、決まった時間に早歩きをしてください。毎日同じ時間に行うことで、加齢によって乱れがちな体内リズムが回復し、継続的な睡眠効率の改善を期待できます」。
【健康効果⑧】「熱中症を予防」する
「ややきつい早歩きの後、30分以内にコップ1~2杯の牛乳を飲むと、皮膚の血流が増加して、熱中症にかかりにくくなります」と、能勢先生。
実は運動直後に摂取する牛乳には、血液量を増やす効果があります。
牛乳に含まれるたんぱく質が、体内の水分を血液中に集める働きをするアルブミンという物質を作り出し、その結果、血液量が増加するのです。
血液量が増えると、皮膚の血管が開きやすくなり、汗をかきやすい体に。
すると、体温調節が円滑になり熱中症が予防できるように。
60代以上は8週間ほど"早歩き+牛乳"を続けると、暑さに強い体になるという実験結果もあります。
【健康効果⑨】6カ月間で「がんになった人の生活の質も改善」(がんの予防にもなる)
ややきつい早歩きが、がんの発生リスクを下げるかは断言できませんが、生活習慣病ががんの発症リスクを高めることも報告されています。
ややきつい早歩きは生活習慣病を改善するので、続けることでがん発症のリスクを下げられる可能性はあります。
一方、すでにがんになった人に対しては、早歩きが体力向上や生活の質を高める効果があると分かっています。
がん治療を終えた人20人に6カ月間、早歩きトレーニングを行ったところ上記の結果に。
「睡眠が深くなった」「体調が良くなった」「思考が前向きになった」という声も多くみられました。
【運動持久力】18%アップ
【血中総コレステロール値】5%ダウン
【ひざを伸ばす筋力】14%アップ
《早歩き+牛乳で血流がアップして若返る》
早歩き+牛乳の効果には、筋力のアップもあります。すでに半年以上早歩きトレーニングを行い、効果が頭打ちになっている中高年女性を対象に、トレーニング後、乳製品を摂る調査を5カ月間行うと、太ももの筋肉が太くなり、筋力も増加しました。また、運動終了後1時間は筋肉にアミノ酸も多く取り込まれます。アミノ酸は筋肉や皮膚、髪の毛、血液などのもとになる物質。牛乳など飲食物の中のたんぱく質を分解して作られます。
取材・文/笑(寳田真由美) 撮影/西山輝彦 イラスト/ノダマキコ モデル/永谷佳奈