実は接着剤の失敗作から誕生した「ポスト・イット」/すごい技術

pixta_39074468_S.jpg私たちは毎日身のまわりの「便利なモノ」のおかげで快適に暮らしています。でもそれらがどういう仕組みなのか、よく知らないままにお付き合いしていませんか?

身近なモノに秘められた"感動もの"の技術をわかりやすく解説します!

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前の記事「瞬間接着剤の分子は、空気に触れたとたん手を繋ぐ/すごい技術(36)」はこちら。

 

●ポスト・イット

覚書や学習のメモ書きなどに欠かせないポスト・イット。机や本、ノートにペタペタ貼れて、すぐにはがせるので便利だ。

ポスト・イットは米国3M(スリーエム)の商標で、一般名詞は粘着メモ[付箋(ふせん)]。しかし、商標のほうが通りがいい。どうして何度もくっつき、きれいにはがせるのか。この秘密を知るには、開発の歴史をたどるとわかりやすい。

今から半世紀ほど前、接着剤を研究する3Mの研究者の一人が、開発の過程ではがれやすい粘着剤を偶然作成した。接着剤の研究者としては、当然強く接着するものを期待し、「失敗作」と思ったが、気になって調べてみると、粘着剤の分子が球状になって均一に分散していることがわかった。粘着剤の分子が球形となって並べば、くっつけたりはがせたりする糊になることが発見されたのである。

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これには後日談がある。この粘着剤がすぐに付箋と結びついたわけではない。当初、使い道が不明で、3Mの社内でこの糊の用途を公募しても、企画が出なかったのだ。それから5年後、開発者とは別の研究員が合唱で歌う最中、挟んでいた栞(しおり)を落とした。このとき閃(ひらめ)いたのだ。「貼ってはがせる用紙があると便利」と。1974年、ポスト・イット誕生の瞬間である。

この「貼ってはがせる」糊を利用した製品は、多方面で活躍している。例えば、紙切れを付箋に変える「はがせるスティック糊」や、ボードに画びょうやマグネットのように紙を掲示できる「粘着グミ」(「粘着画びょう」ともいう)がそうだ。また、文具以外でも利用されている。例えば掃除用具の「コロコロ」。くっついてはがれるというポスト・イットの粘着剤の性質を上手に生かした商品である。2種の粘着剤のついた円筒をコロコロ回転することで、ゴミを吸着するしくみだ。

ポスト・イットの内容をスマートフォンで撮影し、それをメモ編集で有名なクラウドサービス「エバーノート」に取り込む、というデジタル文具としての利用も話題である。ポスト・イットのメモ書きをデジタル化して整理し、分類や検索ができるようになるのだ。

 

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<教えてくれた人> 

涌井良幸(わくい・よしゆき)

1950年、東京都生まれ。東京教育大学(現・筑波大学)数学科を卒業後、千葉県立高等学校の教職に就く。教職退職後の現在は著作活動に専念している。貞美の実兄。

 

涌井貞美(わくいさだみ)

1952年、東京都生まれ。東京大学理学系研究科修士課程修了後、富士通に就職。その後、神奈川県立高等学校教員を経て、サイエンスライターとして独立。現在は書籍や雑誌の執筆を中心に活動している。良幸の実弟。


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『身のまわりのすごい技術大百科』

(涌井良幸・涌井貞美/KADOKAWA)

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この記事は書籍『身のまわりのすごい技術大百科』からの抜粋です

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