私たちは毎日身のまわりの「便利なモノ」のおかげで快適に暮らしています。でもそれらがどういう仕組みなのか、よく知らないままにお付き合いしていませんか?
身近なモノに秘められた"感動もの"の技術をわかりやすく解説します!
◇◇◇
前の記事「修正液の「白」は、日焼け止めクリームの「白」/すごい技術(35)」はこちら。
●瞬間接着剤
モノを壊したときの力強い助っ人が瞬間接着剤。瞬く間に壊れた部分を貼りつけてくれる。その瞬間の秘密は水分にある。
瞬間接着剤がモノを瞬間的に接着するしくみを調べる前に、接着剤の基本を知っておこう。接着剤は液体であり、接着対象のふたつの表面に広がりなじんで分子レベルで結合する。そして、乾燥して固化することでしっかりと2面をくっつける。このしくみからわかるように、接着剤は最初は液体、そして塗った後は固体になる。
接着の時間を大きく決定するのは液体の固化である。瞬間接着剤はこの「固まる」動作が一瞬の接着剤なのだ。では、どうやって一瞬に固化するのか。秘密は空気中の水分にある。空気中の水分に触れると瞬間的に固まる物質を、瞬間接着剤は利用しているのだ。
普通の生活の環境では、常に空気中に湿気があり、モノの表面はわずかながら湿っている。瞬間接着剤はそのわずかな水分をきっかけとして、一瞬にして固まってしまうのだ。
瞬間接着剤の代名詞になっているアロンアルファでしくみを見てみよう。主成分はシアノアクリレートと呼ばれる物質だ。この物質はまさに先ほど述べた「水分に触れると固まる」という性質がある。通常は液体の状態で分子がバラバラの分子(モノマー)になっているが、空気中の水分に触れると瞬間的に分子同士が手をつなぎ、固まって固体(ポリマー)になる。こうして瞬間接着が可能になるのである。
この水分に相当するものを化学の世界では触媒(しょくばい)と呼ぶ。化学反応の速度を速めるが、自らは反応しない物質のことだ。化学工業の世界で、触媒はとても重要である。モノを作る時に時間の尺度が重要だからだ。早く製造できなければ、いくらいい製品でも工業的には意味がない。そこで触媒が利用されるのである。
身のまわりの触媒として有名なものに、灰がある。燃え残りの灰はそれ以上燃焼することはないが、燃焼を促進できるのだ。例えば、角砂糖はそのままでは火をつけても燃えないが、灰をまぶして火をつけると燃え始める。これが灰の触媒作用である。
次の記事「実は接着剤の失敗作から誕生したポスト・イット/すごい技術(37)」はこちら。
◇◇◇
<教えてくれた人>
涌井良幸(わくい・よしゆき)
1950年、東京都生まれ。東京教育大学(現・筑波大学)数学科を卒業後、千葉県立高等学校の教職に就く。教職退職後の現在は著作活動に専念している。貞美の実兄。
涌井貞美(わくい・さだみ)
1952年、東京都生まれ。東京大学理学系研究科修士課程修了後、富士通に就職。その後、神奈川県立高等学校教員を経て、サイエンスライターとして独立。現在は書籍や雑誌の執筆を中心に活動している。良幸の実弟。