現代を支えている基幹技術の一つが「接着剤」である。例えば、30年ほど前の車では、ガラスと鉄のボディーがゴムパッキンを介して固定されていた。しかし、今は鉄とガラスが接着剤で直接固定されている。接着剤が省エネと省労力にどれだけ寄与したか計り知れない。
このように重要な働きをする接着剤だが、「接着とは何か」とあらためて考えると不思議である。そこで、そのしくみを知るために次のような簡単な実験をしてみよう。
まず2枚の普通のガラス板を用意する。それらを重ねただけではくっつくことはない。しかし、その間に水を少し垂らし、押しつけてみよう。2枚のガラス板はピッタリとくっつき、離すのが難しくなる。さらに、それを冷凍庫に入れ、挟まれた水を凍らせてみると、もうガラスは分離できなくなる。水のように、本来接着剤でないものでも、二つのものの間に入れて固めると、接着効果が生じるのだ。これが接着剤の秘密を解くカギである。
接着剤は対象を引き合わせる性質を持たなければならない。先の「ガラスと水」の実験の場合、その力の元は分子と分子が持つ分子間力である。原子や分子同士が本来持つ引き合う力が接着の性質の源になっているのだ。物質と接着剤との化学結合がこの性質の源になっている場合もある。
さらに、接着剤は固まる必要がある。先の実験の場合、水が凍ることで接着がより強固になったのを思い出してほしい。ミクロに見ると、接着剤が釘のように接着面に突き刺さり、結合を強固にしたと考えられる。
瞬間接着剤は、この「固まる」動作が一瞬の接着剤なのである。その秘密は空気中の水分にある。瞬間接着剤は、空気中の水分に触れると瞬間的に固まる物質を利用している。瞬間接着剤が「瞬間的」に硬化・接着する秘密は、この水の触媒作用にあるのだ。シアノアクリレートがその代表的な物質である。
涌井 良幸(わくい よしゆき)
1950年、東京都生まれ。東京教育大学(現・筑波大学)数学科を卒業後、千葉県立高等学校の教職に就く。現在は高校の数学教諭を務める傍ら、コンピュータを活用した教育法や統計学の研究を行なっている。
涌井 貞美(わくい さだみ)
1952年、東京都生まれ。東京大学理学系研究科修士課程を修了後、 富士通に就職。その後、神奈川県立高等学校の教員を経て、サイエンスライターとして独立。現在は書籍や雑誌の執筆を中心に活動している。
「雑学科学読本 身のまわりのモノの技術」
(涌井良幸 涌井貞美/KADOKAWA)
家電からハイテク機器、乗り物、さらには家庭用品まで、私たちが日頃よく使っているモノの技術に関する素朴な疑問を、図解とともにわかりやすく解説している「雑学科学読本」です。