88歳のプログラマー若宮正子さん流「正しく知って正しく怖がる」

そんなエストニアで驚いた話があります。あちらでは日本のマイナンバーに相当する個人識別コードを持つことが義務付けられているのだそうです。あるとき、私がずっとお世話になっている現地在住の60代後半の日本人男性が病気になられたのですね。心筋梗塞じゃなかったかしら。彼はもうほとんど意識不明で、自分の病状を話せるような状況ではなかったらしいのですけれど、過去の病歴から今受けている治療、服用している薬の種類まで、全部そのコードをもとにお医者様が把握していらして、適切な治療が迅速に受けられたのだと伺いました。
それがなかったら、必要な情報を得るために時間がかかって、命が助からなかったかもしれないと。

さらに面白かったのが、エストニアの大学では卒業証書にもそのコードが記録されたチップが埋め込まれているのです。卒業証書は卒業証明書でもあるというわけで、チップで確認が取れるので経歴詐称なんてできないんですよ。すごいですよね。

日本ではマイナンバー制度に対して、個人情報の扱いなどから不安を感じている方も多くいらっしゃると思います。マイナンバー制度とマイナンバーカードの違いをご存じない方も多いのですが、マイナンバーをもっと活用しましょうというのと、マイナンバーカードを持ちましょうというのとは別の話なんです。
カードを持つ不安もあれば、エストニアのような情報の一元化がもたらすメリットが受けられない不安というのもあるんですね。

マイナンバーに限らず、コロナウイルスとワクチンのこと、放射能のこと、最近ではチャットGPTなどもそうですが、何でも正しく知って、正しく怖がるということが大事だと思いますね。なんとなく不安という気持ちの根底には、薬の効能よりも先に副作用を気にしてしまう国民性もあるのかなと思います。やはり自分で判断していく姿勢が大切かなと思います。

 

若宮正子(わかみや・まさこ)
1935年東京生まれ。東京教育大学附属高等学校(現・筑波大学附属高等学校)卒業後、三菱銀行に入社。58歳頃に好奇心でパソコンを買う。エクセルと手芸を融合した「エクセルアート」創始者。2016年にはアプリの開発を始め、17年に米国アップルによる世界開発者会議「WWDC 2017」に特別招待される。デジタルクリエーター、ICTエバンジェリストとして世界的に活躍中。シニア向けサイト一般社団法人「メロウ倶楽部」理事。NPO法人ブロードバンドスクール協会理事。熱中小学校教諭。岸田首相主催「デジタル田園都市国家構想実現会議」構成員。ハンドルネームは「マーチャン」。

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『昨日までと違う自分になる』

若宮正子/KADOKAWA

人生を幼少期から紐解き、「うまくいかなくてもいいから、やりたいことをやってみる」、「老人だって、昨日できなかったことが今日できるようになる」と思うようになった、楽しんで生きるヒントが綴られた一冊。

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