話しかけても反応がない夫と、どう暮らしていけばいいのか――。アスペルガー症候群のパートナーと結婚し、家庭を築いていく難しさから次第にうつ状態となったシニア産業カウンセラーの真行結子さん。自身の体験から、「自分らしい夫婦の形を実現させることが大切」だと気づかされました。そんな真行さんの著書『私の夫は発達障害?』(すばる舎)から、いい夫婦関係を保つヒントを連載形式でお届けします。
発達障害とは?
すでにご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、ここで改めて「発達障害」とは、どういったもののことを言うのか、解説したいと思います。
発達障害とは、生まれつき脳に何らかの機能障害があることで、発達に偏りが見られる障害です。
得意・不得意と、その人が過ごす環境や周囲の人とのかかわりのミスマッチから、社会生活に困難な状況が発生します。
その症状や困りごとは十人十色です。
外見からはわかりにくいため、周囲から「自分勝手」「わがまま」などと捉えられることも少なくありません。
しかし、発達の偏りによる困難さは、環境を調整し、特性に合った学びの機会を用意することで、軽減されると言われています。
周囲の人が、その人の個性・能力・希望などを理解したうえで、その人に合ったサポートをしていくことが大切です。
発達障害はひとりひとり症状や特性が異なり、さまざまな特性を併せ持っている人もいますが、大きく分けると、次の三つのタイプに分類されます。
●自閉スペクトラム症(ASD)
自閉スペクトラム症(ASD)は、発達障害の一つで、特徴として次の二つがあると言われています。
① 社会的コミュニケーションの障害
② 限定された興味
自閉スペクトラム症のある人は、対人関係が困難だったり、特定のものに強いこだわりを持っていたり、パターン化された行動を好んだりする特徴があります。
主に、人と視線を合わせようとせず、周りの人に興味を持たなかったり、言葉のキャッチボールが苦手だったり、ものごとの手順が変わると混乱したりする場合があります。
会話の裏側や行間を読むことが苦手で、アイコンタクトの意味や人の表情を読み取ることができず、空気を読まないストレートな表現をしてしまうこともあります。
集団になじめなかったり、ルールがあいまいな場面で臨機応変に対応できなかったり、自分の気持ちをうまく言葉にできなかったりもします。
光や音、味や匂い、触り心地などに敏感な感覚過敏や、反対に、痛みや五感への刺激に対する反応が鈍い感覚鈍麻のある人も多いです。
「自閉スペクトラム症」は、もともと「広汎性発達障害」と呼ばれていました。
しかし、2013年に刊行されたアメリカ精神医学会の精神疾患の診断・統計マニュアル「DSMー5」では、「自閉スペクトラム症/自閉症スペクトラム障害」という障害名に統合されました。
この障害名には、それまで「自閉性障害」「アスペルガー症候群」などと呼ばれていたいくつかの障害がすべて含まれます。
つまりDSM-5では、これらは別々のものではなくスペクトラム(連続した)障害であるという見方を新たに採用しています。
※この書籍の中では、個々のケースの当時の診断である「アスペルガー症候群」という記載を用いています。
●注意欠如多動症(ADHD)
不注意(集中力がない)、多動性(じっとしていられない)、衝動性(思いつくと行動してしまう)などの症状が見られる障害です。
ただし、症状がどのようにあらわれるか、その強弱は人によって異なります。
たとえば「不注意」の特徴が強いタイプは、仕事に集中しづらかったり、忘れものが多かったりします。
ほかのことが気になるとすぐに注意がそれてしまう反面、自分が好きなことには熱中し、話しかけられても気づかないことがあります。
「多動性・衝動性」が強くあらわれるタイプは、落ち着きがないことが多く、感情や欲求のコントロールが苦手な傾向があります。
「不注意」と「多動性・衝動性」が、混合してあらわれることもあります。
●限局性学習症(LD)
全般的な知能の発達には遅れがないものの、読み書きや話す能力、計算能力などに困難が生じる障害です。
識字障害、書字障害、算数障害など人によって症状のあらわれ方は異なります。
これらの障害は重なり合うことも多く、そのあらわれ方の強弱も一定ではありません。
ASDとADHDには、知的障害を併存している人もいます。
次に発達障害(アスペルガー症候群)チェックリストを掲載しています。
よろしければ、ご活用ください。
発達障害(アスペルガー症候群)チェックリスト
自閉症研究者として有名なスウェーデンの研究者であるギルバーグは、アスペルガー症候群の診断基準をよりわかりやすくするために、自ら次のような診断基準を作りました。
発達障害であるかどうかを知る参考になると思います。
ただし、この診断表は、あくまでも目安の一つです。
発達障害には個人差があります。
実際には、詳細なテストを行い、国際基準のもと発達障害の診断がおります。
正確な診断を望まれている方は、医療機関を受診し、専門家に相談されることをおすすめします。
【ギルバーグ・ギルバーグによるアスペルガー症候群診断基準1989】
1.社会性の欠如<極端な自己中心性>
(次のうち少なくとも二つにチェックがつくと、発達障害の傾向があるとされています)
□友だちと相互にかかわる能力に欠ける
□友だちと相互にかかわろうとする意欲に欠ける
□社会的シグナルの理解に欠ける
□社会的・感情的に適切さを欠く行動
2.興味・関心の狭さ(次のうち少なくとも一つ)
□ほかの活動を受けつけない
□固執を繰り返す
□固定的で無目的な傾向
3.反復的な決まり(次のうち少なくとも一つ)
□自分に対して、生活上で
□他人に対して
4.言葉と言語表現の問題(次のうち少なくとも三つ)
□発達の遅れ
□表面的には誤りのない表出言語
□形式的で、細かなことにこだわる言語表現
□韻律の奇妙さ、独特の声の調子
□表面的・暗示的意味の取り違えなどの理解の悪さ
5.非言語コミュニケーションの問題(次のうち少なくとも一つ)
□身振りの使用が少ない
□身体言語(ボディランゲージ)のぎこちなさ・粗雑さ
□表情が乏しい
□表現が適切でない
□視線が奇妙、よそよそしい
6.運動の不器用さ
□神経発達の検査成績が低い
出典:Gillberg IC, Gillberg C (1989) Asperger syndrome: some epidemiological considerations: a research note. Journal of Child Psychology and Psychiatry 30:631-8
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