話しかけても反応がない夫と、どう暮らしていけばいいのか――。アスペルガー症候群のパートナーと結婚し、家庭を築いていく難しさから次第にうつ状態となったシニア産業カウンセラーの真行結子さん。自身の体験から、「自分らしい夫婦の形を実現させることが大切」だと気づかされました。そんな真行さんの著書『私の夫は発達障害?』(すばる舎)から、いい夫婦関係を保つヒントを連載形式でお届けします。
改善を試みる妻と、それに向き合えない夫
発達障害の有無にかかわらず、夫の性格や特性を理解し、適切な接し方をすることは、良好な夫婦関係を築くために、とても大切なことです。
まして、夫が「発達障害」の場合は、なおさらです。
夫が、生き辛さや心身の不調を感じ、自ら医療機関を受診した場合、その要因が発達障害特性にあるならば、医師から発達障害の診断がおりるでしょうし、診断がおりない場合には、「傾向がある」「きわめて近い」などのお話があろうかと思います。
しかし、生活や妻との関係に困っていない夫は、自ら受診する「動機」を持っていません。
一方で、夫との関係性に悩む妻は、「夫の言動」と「発達障害の特徴」に重なりを感じ、「もしかしたら夫は発達障害なのでは」と推察しています。
接し方を工夫したり、受診を勧めたり、関係の改善を試みる妻に対し、夫が向き合わない(向き合えない)場合、関係の改善が思うように図られません。
多くの妻たちはいっそう悩み、疲弊していきます。
改善を試みる妻と、それに向き合えない夫の関係が、カサンドラを生むのです。
妻がカサンドラ症候群に陥っている多くのケースにおいて、その原因は「夫婦でお互いが向き合い歩み寄る姿勢の欠如」です。
カサンドラ症候群からの回復には、「お互いが向き合い歩み寄る姿勢」が重要なポイントです。
しかし、夫にその姿勢が見られない場合は、思い切って「夫と距離を取る」選択をすることも必要かもしれません。
関係が良好な夫婦に見られる共通点
発達障害のパートナーと愛し合い、よい関係を保っているカップルに多く見られる共通点があります。
それは次の五点です。
① 夫の、自分には発達障害特性があるという自覚
② 妻の、発達障害への理解および夫への適切な対応
③ よい関係づくりに向けて夫と妻が努力していること
④ 悩みを「家庭」のみで抱え込んでいない。周囲の理解とサポートがある
⑤ 夫の受診、正確な診断、その後の医療機関等でのサポート
よい関係とは、お互いの特性や性格、価値感等を認め合い、「その違い」を認めながら、ふたりが気持ちよく暮らしていくことができるよう、「対等」に対話を重ねつつ着地点を見出していく作業に取り組んでいる関係です。
「夫には発達障害の特性がある」という認識を夫婦で共有し、夫は自分自身の言動をふりかえり、妻は発達障害特性に合わせたかかわりをするなど、よい関係を保つためにお互いが努力をしています。
ところが、夫からの歩み寄りがなく、妻の献身的、自己犠牲的な努力のみの場合、妻は精神的・肉体的負担感で消耗し、遅かれ早かれ、夫婦関係は「よい」とは言えない状態となっていきます。
「よい夫婦関係づくり」に向けては、夫婦関係などの悩みを家庭内のみで解決しようとするのではなく、家庭外のサポートを上手に活用することも大切です。
社会には、さまざまな支援サービスがあります。
こうした社会資源も上手に活用しましょう。
夫に発達障害の診断がおりていたり、発達障害の傾向があると指摘を受けている場合、医師やカウンセラー等から、居心地のよい関係を保つためのスキル習得の機会やアドバイスのサポートを受けることも、ふたりの関係を円滑にするためには有益です。
身近な周囲の理解とサポートが大きな助けになる
夫婦である本人達が努力をしていても、生活のなかでストレスを抱える場面は生じるものです。
その気持ちや状況に対し、身近な周囲、たとえば、双方の両親、きょうだいたち、友人らが耳を傾け、理解すること、そして、必要に応じてサポートを行うことは、ふたりの「よい関係づくり」の大きな助けとなります。
夫婦で、もしくはひとりで抱えていることにしんどさを感じたら、身近な周囲の人に相談をしてみましょう。
「悪いのは息子ではなく、妻であるあなたよ」「あなたが選んだ夫なのだから我慢しなさい」などと義父母や父母等に言われ、傷ついた体験を持つカサンドラも少なくありません。
相談を受けた方は、相談者の話や気持ちを否定せず、一方的なアドバイスは控え、解決策を一緒に探していく姿勢で接してくださるとよいでしょう。
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カサンドラ症候群から回復するまでの同居・別居・離婚の3ケースを全5章が紹介されています