話しかけても反応がない夫と、どう暮らしていけばいいのか――。アスペルガー症候群のパートナーと結婚し、家庭を築いていく難しさから次第にうつ状態となったシニア産業カウンセラーの真行結子さん。自身の体験から、「自分らしい夫婦の形を実現させることが大切」だと気づかされました。そんな真行さんの著書『私の夫は発達障害?』(すばる舎)から、いい夫婦関係を保つヒントを連載形式でお届けします。
©アライヨウコ
ふたりで楽しめる趣味を持つ
カサンドラ(アスペルガー症候群のパートナーや家族と情緒的な相互関係を築くことが困難で、不安や抑うつといった症状が出る状態)の妻は、夫婦での「分かち合い」を求める傾向があります。
ただし、発達障害特性のある夫と「多く」を分かち合うこと、そして、妻が求める分かち合いの「質」を得ることは難しいかもしれません。
しかし、希望を捨てることはありません。
発達障害特性のある夫と、趣味の時間を共有する(分かち合う)ことで、心地よい関係を続けているカップルもいます。
あるカップルは月に一度、共通の趣味である絵画鑑賞のため美術館を訪れると決めています。
美術館でのふたりのひとときを持つことで、妻がこれまで感じていた、自室にこもりがちな夫への「不満」は「受容」に変化したそうです。
夫に限定せず、信頼できる他者とゆるやかなつながりを持つ
人は人とのつながりのなかで生きていくものです。
しかし、一つのつながり(関係性)に固執、依存している場合、その関係がうまくいかないと、不安が強くなったり、その関係性が健全ではなくても、変化を試みたり、解消することが難しくなります。
夫とふたりで楽しめる趣味や興味を持つことのほかに、夫以外の人と楽しめる時間を持つことをおすすめします。
友人、趣味の仲間など、複数のゆるやかなつながりを持ってみるとよいでしょう。
「広がりのある人間関係」を持つことにより、それまで心の多くを占めていた「夫との関係に満たされない」感覚が減少していくこともあります。
夫との関係に満たされない理由の一つとして、「夫から共感を得にくい」と多くのカサンドラが語っています。
発達障害のうち、自閉スペクトラム症の人は、相手の立場に立ち、気持ちを想像するのが苦手と言われています。
そのような夫を持つ妻が、感情面での共有ができる友人を意識的に持つようにした結果、夫に対して共感を求める気持ちが弱まり、夫婦関係が改善されたケースもあります。
夫婦関係がどうしても煮詰まってしまいそうなときは、セルフヘルプグループに参加し、その気持ちをカサンドラの仲間たちと共有している妻もいます。
グループにつながることで「自分だけじゃない」「気持ちがラクになった」と多くのカサンドラが語っています。
「夫婦だけ」「ひとりだけ」で抱えていると、孤立し、パンクする可能性が高くなります。
よい関係を保っている多くのカップルは、他者とのつながりを持っています。
特定の個人に限定(依存)せず、信頼できる他者とのつながりを持つ。
特に発達障害特性のある夫を持つ妻において、それは疲弊し、燃え尽きることを回避するために必要な智恵でもあるのです。
マニュアル通りにはいかないと意識する
あなたと夫の関係性は世界に一つだけ。
ほかのカップルに有効だった方法が、あなたと夫の関係性にも有効とは限りません。
先に記したヒントは、すべてのカップルに有効ではありません。
インターネットで得た情報も同様です。
あくまで参考にしていただき、自分たち夫婦に合った方法を見つけていただけたらと思います。
また、専門家から、あなたと夫の関係性についてのパーソナルなサポートを受けることも、賢明な選択であると思います。
その場合、発達障害への知識もさることながら、カサンドラ症候群への理解と、ふたりに対する寄り添いの心を持つ専門家を選ぶことが重要です。
がんばりすぎない
がんばりすぎていませんか?
一方的な努力に疲れていませんか?
自分の限界を超えた努力は「自己犠牲」であり、幸せから遠ざかることでもあります。
実践する「べき」と、自分に義務や責任を課すことはやめましょう。
重荷に感じてしまわないように気をつけてください。
難しく感じたら、行き詰まる前にいったん立ち止まりましょう。
「よい夫婦関係」の前提となるのは、「自分を大切にする生き方」であることを意識しましょう。
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カサンドラ症候群から回復するまでの同居・別居・離婚の3ケースを全5章が紹介されています