「相手の気持ちが分からない」「その場の雰囲気を察することができない」「整理整頓ができず部屋中に物が散乱している」...。仕事や家庭生活でこんな悩みを持ち、「もしかしたら自分は『大人の発達障害』かもしれない」と考える人が増えているようです。以前は「発達障害」といえば子どもの疾患だと考えられていましたが、近年、大人になってからも症状が続くことが認識されるようになりました。テレビや雑誌などでも「大人の発達障害」として、「ADHD(注意欠如多動性障害)」や、ASD(自閉症スペクトラム障害)の一種である「アスペルガー症候群」などが頻繁に取り上げられるようになっています。
発達障害とはどんな疾患で、どんな特性があるのかなどについて、発達障害の診断・治療の第一人者である昭和大学医学部精神医学講座主任教授の岩波明先生に聞きました。
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●不注意と落ち着きのなさが特性のADHD
大人の発達障害の中で大部分を占めている2つの疾患があります。それはADHDとASDです。どちらも生まれつきの疾患で、大人になってから急に発症するわけではありません。それぞれの症状について見ていきましょう。
まずADHD(注意欠如多動性障害)は、子どものころから「落ち着きがなく衝動的に行動する」「不注意」「片付けが不得意」などの特性があります。この症状は社会人になっても継続します。例えば、上司が話していても上の空だったり、ケアレスミスを頻繁に起こすケースが多いようです。そのため職場の信用がなくなり、人間関係も悪くなっていくのです。
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「ADHDの人の割合は成人の約3~5パーセントだと考えられています。男女比でいうと、子どものころは男の子の方がADHDだと診断されやすい傾向があり、実際の比率も高いです。それは、男の子の多動や衝動性が女の子に比べて目立つからだと推測できます。しかし、成人すると男女比はほとんど変わらないという報告があり、実際に私が診察している患者さんを見ても、男女の比率はほぼ同じです」と岩波先生。
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●コミュニケーションが苦手で強いこだわりが特性のASD
次に、ASDについて見ていきます。ASD(自閉症スペクトラム障害)にはアスペルガー症候群や自閉症が含まれます。ASDの人は子どものころから「対人関係が苦手」「集団の中で孤立する」という特性があります。他人への関心が薄く、相手の気持ちが理解できないので親密な関係を築くことが難しいようです。教室や職場でも他の人とつながろうとせずに、孤立した状態が続くことがよくあります。
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もう一つの特性は「特定のものに偏った興味を示す」「反復的な行動をする」ということです。電車の時刻表やパソコンなど、自分の興味のあるものに著しい執着を見せることが多く、指や手を繰り返し不自然に動かしたりする様子が見られることもあります。ASDの人の割合は100人に1人弱、つまり1パーセント弱と考えられていて、男女比では男性が多いです。
●ADHDとASDは似ている?
「ADHDとASDは症状が似ていることが多く、実際の診療場面でも判断が難しいことがあります。どちらの疾患も、子どものころから症状が現れていることがほとんどなので、保護者から子ども時代のエピソードを聞くことができたり、通知表の教師のコメントなどがあれば判断の参考になります」と岩波先生。
そういった情報がない場合は診断がさらに難しくなるのですが、見分けるポイントの一つは「同一性へのこだわり」です。特定のものに過度に熱中したり、機械的な動作を繰り返す症状が見られるときには、ASDの可能性が大きいと考えられます。ADHDではそのような症状はあまり見られないからです。ただし、両方の疾患が共存しているケースも少なくないのです。
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取材・文/松澤ゆかり