女性の社会進出で「埋まったイス」とは? 賃金格差を解消する過渡期の今、起こっている社会のゆがみ

体調不良からフリーランスになった男性の体験談

このことについて、ある弱者男性はこう語る。

「僕は新卒で体を壊して、それから一般就労が無理だからフリーランスになりました。それで初めて知ったんですけど、フリーランス界隈には主婦ライターとか、主婦デザイナーってのが無限にいるんです。で、信じられない値段で仕事を引き受けちゃう。1文字0.2円とか。1000文字書いても200円って、最低賃金どころじゃないでしょ。でも引き受けちゃう。だって、そうしたら社会参加してる気になれるでしょ」

――よく、自宅を改装して飲食店を経営し、競合が追随できないほどの単価で料理を出してしまうお店が「家賃のしない味」と揶揄されるのと同じですね。

「それです。でも、そんなことをされたら専業フリーランスの僕らは、食べていけなくなっちゃう。企業からしたら、同じ文章を書いてもらって僕へ2万円払うより、主婦ライターの200円で済ませたいですよね。でも、それで月5000円も稼げちゃったって言って、豪華なランチを食べているフリーランスもどきの主婦を見ると、イラッとはしますよね」

ゆがみが起こる社会的背景

背景事情を補足しよう。これまで、優秀な女性が泣く泣く専業主婦を選ばざるを得なかったケースも多い。男女の賃金差を研究し、ノーベル経済学賞を受賞したクラウディア・ゴールディン氏は「社会には、時間を問わず顧客対応できる人間が高い報酬を得る構造」があるという。時間を問わず対応する働き方をするなら、その人間は家庭を犠牲にしなくてはならない。そのため、子どもがいる夫婦の場合は、どちらかがキャリアを手放す必要がある。そして、伝統的に女性がその役割を担ってきた。

ゴールディン氏によれば、女性への偏見・差別から生まれる給与格差よりも、この「時給プレミアム」によって、男女の賃金差は大きくなるのだという。そのため、出産前の夫婦や、DINKs(子どものいない夫婦)では経済格差が見られない。また、子どもの発熱などで突然早退することになっても、業務の引き継ぎをしやすいエンジニアや薬剤師では、男女の賃金格差が少ないという。

確かに、夫婦の片方がキャリアを維持し、収入を上げたいならば、もう片方はキャリアを犠牲にせざるを得ない。その構造が、これまでの女性を非正規職へ追いやってきたといえるだろう。そして、一度離職した彼女らは自分の価値を高く見積もらない。履歴書の空白期間を理由に、多くの採用面接で拒絶されてきたからだ。

手に職を付けたい専業主婦が男性を追い込む

それでも働く道として、専業主婦を脱したい女性は「手に職」をつける方向へ走り、資格職やフリーランスなどでお金を稼ごうとする。たとえばWebデザイナーのように「ITを駆使することで育児と両立可能な働き方を見つけ、男女の賃金格差を減らしていく」やり方は、ゴールディン氏が論文で提案した解決策のひとつだ。そのため、日本のフリーランス人口は年々増加傾向にあり、今や労働人口の25%に達している。

だが、今はまだ過渡期である。そして、主婦を脱したい女性たちは駆け出しである。だから、安い案件も修業と割り切って引き受ける。そういった当事者の女性たちに「専業で食べる人間の報酬をダンピングしてやろう」という悪意はない。だが、この賃金格差が解消されていく過渡期で犠牲になっているのが、非正規やフリーランスの男性であることを見過ごしてはならない。

 

トイアンナ
ライター・経営者。慶應義塾大学を卒業後、P&G ジャパンとLVMHグループにてマーケティングを担当。同時期にブログが最大月50 万PVを記録し、2015 年に独立。主にキャリアや恋愛について執筆。書籍『就職活動が面白いほどうまくいく 確実内定』(KADOKAWA)、『モテたいわけではないのだが ガツガツしない男子のための恋愛入門』(イースト・プレス)、『ハピネスエンディング株式会社』(小学館)など。これまで5000 人以上の悩み相談を聞き、弱者男性に関しても記事を寄稿。

※本記事はトイアンナ著の書籍『弱者男性1500万人時代』(扶桑社)から一部抜粋・編集しました。

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