「結果が出せる」「結果を出せる」どちらが自然? 言葉の変化の理由を考察する

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『日本語の大疑問2』 (国立国語研究所:編/幻冬舎)第7回【全7回】

ふだんなにげなく使っている日本語も、時代の移り変わりとともに少しずつ変化し、多様化しています。そんな日本語の文法や仕組みに思いを巡らせ「どうしてだろう?」と疑問に思うことはありませんか?『日本語の大疑問2』は、「ことば」のスペシャリスト集団・国立国語研究所所員や研究所に関係の深い専門家たちが、日本語にまつわるさまざまな疑問に答える回答集です。奥が深い日本語の深層に迫ってみませんか?

※本記事は国立国語研究所編集の書籍『日本語の大疑問2』(幻冬舎)から一部抜粋・編集しました。


「結果が出せる」「結果を出せる」のどちらが自然ですか

(回答=佐野真一郎)

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「が」が自然だが、「を」の傾向が強まっている

結論から言うと、「結果が出せる」の方が自然です。ただし、これは国語・日本語の教科書の「規範」(文法のルール)に従った場合です。つまり、日本語の文法としては「を」ではなく、「が」を使うのが正しいけれども、実際には話し言葉でも書き言葉でも「が」と「を」、どちらの表現も観察されるのです。

試しに、書き言葉の実際の使用例を収録した『現代日本語書き言葉均衡コーパス』を調べると、「結果が出せる」が21件、「結果を出せる」が32件出てきます(2023年10月15日現在)。この結果を見るだけでも、正しいはずの「が」よりも「を」の方が実際には多く使われていることが分かります。

このように、同じことを表すのに複数の表現が存在していることを「言葉のゆれ」と言います。つまり、「結果が/を出せる」のような、可能形における目的語の格助詞の使い方は、言葉のゆれの状態にあると言えます。「出せる」のほかにも「持てる」「作れる」「味わえる」「楽しめる」「行える」「もらえる」といった可能形において、目的語の格助詞が「を」形になる比率が高くなっています。

実は、この格助詞「が/を」のゆれは可能形に限ったことではなく、他に「~したい」などの願望形、「好き」「嫌い」「分かる」「出来る」「欲しい」のような述語を使う時にも見られます。

日本語では、通常「りんごを食べる」のように、目的語を示す時に格助詞「を」を使いますが、これらの動詞は「が」を使う珍しい例です。つまり、「結果が/を出せる」の現象をもう少し広く捉えると、目的語が格助詞「が」で示されるはずの動詞において、代わりに「を」が使われているという言葉のゆれが現代日本語で見られるとまとめることができます。

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言葉のゆれは、世界中の言語に見られるもので、発音に関するもの、文法に関するものなど、これまでに様々な現象が報告されています。これらの共通点として、言葉のゆれは色々な要因の影響を受けるということが言えます。

格助詞「が/を」のゆれについても色々な要因が報告されています。例えば、話者・著者の生年、性別、どのような状況(場面・目的・相手など)で使うか、文法的には「結果を出せる」と「結果しっかり出せる」のように、目的語と動詞との距離などによって、「が」が使われやすい、「を」が使われやすいなど現れ方が変わってきます。もちろん、動詞の種類によっても現れ方は変わります。

実は、格助詞のゆれは「が」と「の」の間でも起こっていて(例、太郎が/の買った本)、「が/を」の場合と同じような要因の影響を受けていると言われています*1。

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更に、格助詞「が/を」のゆれは時間と共に変化しています。上の図は、先ほどの『現代日本語書き言葉均衡コーパス』を使って「が」と「を」の使われ方と時間の流れとの関係を表したものです*2。

縦軸は「が」が使われる比率(%)、横軸は著者の生年代(右に行くほど若い)を表しています。図を見ると、「が」の比率が右肩下がりになっています。つまり、年が若いほど「が」ではなく、「を」をよく使うという傾向を示しているのです。ですから変化としては、文法的には「が」を使うのが正しいけれども、そうではなく「を」を使うという傾向が、徐々に強まってきていると言えるのです。

このように、色々な要因や条件によって使われ方は異なりますし、しかもそれが変化しているので、どちらが自然かを決めるのは実はとても難しい問題です。もしかしたら決められないかも知れません。

 

回答者:佐野真一郎

慶應義塾大学 商学部 教授。博士(言語学)。専門分野は音声学・音韻論、社会言語学、コーパス言語学。コーパス・実験による言語理論の仮説検証、言語使用・言葉のゆれに関する定量的研究を行っている。

 

編者:国立国語研究所

昭和23(1948)年に、日本人の言語生活を豊かにする目的で誕生した、日本の「ことば」の総合研究機関。 ことばの専門家が集まり、言語にまつわる基礎的研究および応用研究を行う。 平成21(2009)年10月に大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 国立国語研究所となり、大学に属する研究者とともに大型の共同研究・共同調査を行うなど、さらに活発な活動を展開。略称は国語研、NINJAL。


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※本記事は国立国語研究所編集の書籍『日本語の大疑問2』(幻冬舎)から一部抜粋・編集しました。

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