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『日本語の大疑問2』 (国立国語研究所:編/幻冬舎)第5回【全7回】
ふだんなにげなく使っている日本語も、時代の移り変わりとともに少しずつ変化し、多様化しています。そんな日本語の文法や仕組みに思いを巡らせ「どうしてだろう?」と疑問に思うことはありませんか?『日本語の大疑問2』は、「ことば」のスペシャリスト集団・国立国語研究所所員や研究所に関係の深い専門家たちが、日本語にまつわるさまざまな疑問に答える回答集です。奥が深い日本語の深層に迫ってみませんか?
※本記事は国立国語研究所編集の書籍『日本語の大疑問2』(幻冬舎)から一部抜粋・編集しました。
「稲妻」は「いなずま」ではなく「いなづま」ではないでしょうか
(回答=宇佐美 洋)
原則として表記に「づ」「ぢ」は使わない
現代日本語のほとんどの方言では「ず」と「づ」、「じ」と「ぢ」は完全に同音です。したがって表記の際には、原則として「ず」「じ」を使用し、「づ」「ぢ」は使わないことになっています。昭和61(1986)年の「現代仮名遣い」に関する内閣告示第1号 (文化庁ウェブページから参照可)によれば、「稲妻」もこの原則に従って「いなずま」と書く、とされています。
一方、「つ」「ち」で始まる語の前に別の語が付いて新しい語を作る際、「連濁」(2語目の最初の清音が濁音化すること)が起こる場合には、元の語の表記を生かし「づ」「ぢ」を使用することになっています。例えば、
「一本」+「釣り(つり)」→「いっぽんづり」
「鼻」+「血(ち)」→「はなぢ」
などがその例です。
「稲妻」は、語源を考えるとこれらと同類であるといえなくもありません。日本には古来、「稲と雷とが交わることで稲穂が実る」という考え方がありました。文字どおり、「稲(いね)」の「妻(つま)」だから「いなづま」なのです。そうすると「いなづま」と書いた方がいいという考え方も、理由がないことではありません。