ファッション誌は、なぜ「新奇」なカタカナ語を生み出すのか。「ガーリーなカジュアル」の進化で考える

『日本語の大疑問2』 (国立国語研究所:編/幻冬舎)第1回【全7回】

ふだんなにげなく使っている日本語も、時代の移り変わりとともに少しずつ変化し、多様化しています。そんな日本語の文法や仕組みに思いを巡らせ「どうしてだろう?」と疑問に思うことはありませんか?『日本語の大疑問2』は、「ことば」のスペシャリスト集団・国立国語研究所所員や研究所に関係の深い専門家たちが、日本語にまつわるさまざまな疑問に答える回答集です。奥が深い日本語の深層に迫ってみませんか?

※本記事は国立国語研究所編集の書籍『日本語の大疑問2』(幻冬舎)から一部抜粋・編集しました。


ファッション誌はなぜ新しいカタカナ語を次々に生み出すのですか

(回答=加藤 祥)

ファッション誌は、なぜ「新奇」なカタカナ語を生み出すのか。「ガーリーなカジュアル」の進化で考える ファッション誌はなぜ新しいカタカナ語を次々に生み出すのですか
※写真はイメージです(画像提供:ピクスタ)

アイコニックなカナージュステッチのキルティングベスト!?

ファッション雑誌は、流行に対応した迅速な購買を促進するため、常に新しい情報を提供するものです。よって、アイテムや情報などの様々な新しさを表現することを目的とした言語現象がたびたび観察されます。

例を見てみましょう。

(1)定番のトレンチはアイコニックなカナージュステッチのキルティングベストを重ねて
(2)無骨なブーツでアヴァンギャルドなスパイスをプラス
(3)タイトなシャツとパンツに対しオーバーサイズのポンチョをラフに纏ったバランスが素敵
(以上、『InRed』「The FASHION PICK」2022年9月26日)

(1)~(3)は、いずれもカタカナ語の使用が目立ちます。篠崎*1は、流行語の発生条件として「新奇さ」を挙げ、「われわれは、マンネリズムを嫌い、既存のものに飽きると目新しいものを求めていく。ことばの面においては、カタカナ語の使用によってその欲求を満たすということも一つの手段である」としています。新しさの表現として、カタカナ語が多く用いられる傾向があることは確かです。

さらに、あまり見かけない専門用語が使用されていることもわかります。たとえば(1)の「カナージュステッチ」は正方形とひし形が交差したような格子柄のことです。他にも特徴が見つかるでしょうか。

女性向けファッション雑誌の3年分の調査*2では、新しさを表す表現が主に大きく3種類確認されていました。

まず、1つ目は、対象物の名称を新しいものとして表現する例です。「ボーイフレンドデニム」(2006~7年頃初出)、「マカロンカラー」(2010年初出)のような新しい複合語の例が見られています。対象物そのものや、複合語を構成するA・Bはとりたてて新しいものではないものの、複合した「AB」の形が新しいという例です。

既存の対象物を新しく言い換えようとしている場合が多く、その表現を目にした読者がどのようなものを示しているか特定可能でありながら、しかし新たに登場したものらしく名づけることで、一転した印象を生み出す表現方法といえそうです。

 

回答者:加藤 祥

目白大学 外国語学部 専任講師。語の意味や比喩表現に興味がある。『現代日本語書き言葉均衡コーパス』(BCCWJ)、『国語研日本語ウェブコーパス』(NWJC)の構築や活用に関わるプロジェクトに参加。現在もBCCWJに様々な情報を付与している。

編者:国立国語研究所

昭和23(1948)年に、日本人の言語生活を豊かにする目的で誕生した、日本の「ことば」の総合研究機関。 ことばの専門家が集まり、言語にまつわる基礎的研究および応用研究を行う。 平成21(2009)年10月に大学共同利用機関法人 人間文化研究機構 国立国語研究所となり、大学に属する研究者とともに大型の共同研究・共同調査を行うなど、さらに活発な活動を展開。略称は国語研、NINJAL。


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