【本作を第1回から読む】ファッション誌は、なぜ「新奇」なカタカナ語を生み出すのか。「ガーリーなカジュアル」の進化で考える
『日本語の大疑問2』 (国立国語研究所:編/幻冬舎)第3回【全7回】
ふだんなにげなく使っている日本語も、時代の移り変わりとともに少しずつ変化し、多様化しています。そんな日本語の文法や仕組みに思いを巡らせ「どうしてだろう?」と疑問に思うことはありませんか?『日本語の大疑問2』は、「ことば」のスペシャリスト集団・国立国語研究所所員や研究所に関係の深い専門家たちが、日本語にまつわるさまざまな疑問に答える回答集です。奥が深い日本語の深層に迫ってみませんか?
※本記事は国立国語研究所編集の書籍『日本語の大疑問2』(幻冬舎)から一部抜粋・編集しました。
東北では「山に行く」を「山サ行く」と言うと聞いたので、「いい天気になった」を「いい天気サなった」と言ったら、この場合は「ニ」だと言われたのですが
(回答=井上 優)
「サ」は空間的な移動の方向を表す
「山サ行く」「東京サ行く」のような〈空間的な移動の方向〉を表す東北地方の格助詞「サ」は、古くは「~の方に(へ)」という意味を表す古典語の「さまに(へ)」にさかのぼると言われています。
大臣(おとど)も立ちて外(と)さまにおはすれば(大臣も立って、外の方へいらっしゃるので)
(『源氏物語』浮舟)
また「サ」の仲間は東北地方だけでなく、遠く離れた九州にも見つけることができます。たとえば「駅の方に行った」を「駅サメ行った」(大分県湯布院町*1)、「駅サネ行った」(宮崎県日南市)のように言います。
ただ、九州方言の「サメ、サネ」の類が、古典語の「さまに(へ)」の用法をよく保存し、〈空間的な移動の方向〉の意にほぼ限定されているのに対し、東北方言の「サ」は、「方向」以外の意味も広く表すように変化し、共通語の「に」に近い意味の広がりを持つにいたっています。