【本作を第1回から読む】体に付く脂肪は1種類じゃない!? 「内臓脂肪」が「皮下脂肪」より厄介な理由
『100歳まで元気でいたければ心臓力を鍛えなさい』 (大島一太/かんき出版)第7回【全8回】
心臓は私たちの身体に欠かせない臓器で、止まることなく働き続ける「命の泉」のような存在です。『100歳まで元気でいたければ心臓力を鍛えなさい』の著者で、心臓をテーマにした多くの著書を持つ循環器科医・大島一太さんによれば、長生きするには心臓の健康が不可欠であり、日々の生活を意識することが重要だそう。本稿では基本として覚えておきたいトピックを紹介します。
※本記事は大島一太著の書籍『100歳まで元気でいたければ心臓力を鍛えなさい』(かんき出版)から一部抜粋・編集しました。
心筋梗塞が非常に少ないイヌイットの食の秘密
以前から心筋梗塞の死亡率が高かった欧米では、心血管病の多い国と少ない国のライフスタイル、特に食生活の違いについて、長年にわたり疫学的な研究、調査を行ってきました。世界で最初に注目を集めたのは、1957年に米国ミネソタ大学で始まった「Seven Countries Study(世界7カ国共同研究)」です。
そこで米国や北欧と比べて、日本や地中海で心筋梗塞の死亡率が低いことがわかり、日本食や地中海食に多く含まれる不飽和脂肪酸が注目されました(53)。
そして1971年、デンマークのダイアベルグ氏とバング氏が、凍ったアザラシの生肉を食べているデンマーク自治領グリーンランドのイヌイットを調査し、魚に蓄えられたEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)などの「オメガ3」が心筋梗塞を予防することを突き止めたのです(54)。
この研究内容は非常に重要ですので、もう少し詳しく解説しましょう。
イヌイットは野菜をほとんどとらず、おもにアザラシの肉を主食としていました。いっぽうで、デンマークの白人は牛や豚、羊などの肉食です。
デンマークの白人とグリーンランドのイヌイットの食生活を比較すると、食事のなかでとる脂肪分は、どちらも40%くらいでしたが、イヌイットのほうが、デンマークの白人よりも心筋梗塞などの心臓病で亡くなる人が非常に少なかったのです。実際の研究結果では、心臓病の死亡率がデンマークの白人が約34.7%なのに対し、イヌイットはわずか5.3%。同じ量の脂肪をとっているのに、なぜこんなに死亡率に差がつくのか......それが、EPA研究のはじまりでした。
よく見ると、肉食であるデンマーク人は、おもに牛肉や豚肉ばかり食べています。いっぽうで、牛や豚のいない北極圏に住んでいるイヌイットは、魚やアザラシなどから脂肪を摂取しています。「脂肪の量は同じでも、中身が違うのではないか」と考えられ、注目されるようになりました。
やがて調査が進み、イヌイットの血液を採取して研究を重ねた結果、イヌイットの血液中に含まれるEPAが、デンマークの白人と比べ、きわめて多いことが判明し、心筋梗塞とEPAの関係がクローズアップされました。イヌイットがとっていたEPAは、アザラシが主食とした青魚に由来していたのです。その後、40年以上にわたる研究の末に、現在ではその効用が広く認められ、心血管病を予防するために、非常に役に立つ成分であることがわかりました。