昔から「白髪を抜くと白髪が増えるから、抜かない方がいい」と言われてきましたが、本当のところはどうなのでしょうか? 銀座スキンクリニックの坪内利江子先生に聞いてきました。
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実のところ、白髪を抜いても増えることはありません。
白髪が発生するしくみについては、ようやく少しずつ解明されてきたところです。
毛髪の根元(毛根)には、毛を鞘(さや)のように取り囲む「毛包(もうほう)」という組織があります。その毛包の最深部には、「毛乳頭(もうにゅうとう)」という組織があり、毛髪を作るために必要な栄養分を「毛母(もうぼ)細胞」に供給しています。毛母細胞はいわば"髪の製造工場"。この毛母細胞が分裂を繰り返して毛髪が作られます。
しかし、分裂した直後の毛母細胞には、色素はありません。白髪と同じ状態です。
そこに色素細胞(メラノサイト)が作り出すメラニン色素を取り込むことで、色がつくのです。このときに何らかの原因で色がつかないと、白髪の状態のまま伸びていきます。これが白髪のしくみです。
色素細胞を作り出しているもととなっているのは「色素幹細胞」という細胞です。
色素細胞から少し離れた「バルジ領域」という隙間に存在しています。色素幹細胞がストレスや加齢によって枯渇してしまうことによって、色素を作り出す色素細胞を増やせず、白髪になっていたのです。
白髪を抜いても増えることはありませんが、だからといって毛を抜くのは、毛母細胞を無理やりはがしているようなものなので、おすすめしません。
また、繰り返し抜くと幹細胞の環境にダメージを与え、髪の毛そのものが生えてこなくなることがあるかもしれません。傷ついた頭皮から、ばい菌が入り込んで炎症を起こすこともあります。
年齢に逆らうことはできませんが、健康な髪を作るためにできることを、普段の生活習慣に取り入れることはできます。
肉や魚、大豆などのたんぱく質、亜鉛や鉄分、カルシウムなどのミネラル、豚肉などのビタミンB群などが含まれる食事を積極的に摂り、睡眠不足やストレスをためない生活を心がけることです。幹細胞が枯渇しない早い段階から取り組み始めることが大切です。
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取材・文/古谷玲子(デコ) イラスト/中川 透