成人の約5分の1が「不眠」と言われる現代。市場には「快眠」のための情報やグッズが溢れています。しかし実は睡眠に関しては多くの誤解や不正確な情報が氾濫しているのが現実です。精神神経学・睡眠学・時間生物学の第一人者が、中高年男女のための「快眠法」を伝授。本当にぐっすり眠りたい現代人のための「睡眠ガイド」です。
※この記事は書籍『睡眠学の権威が解き明かす 眠りの新常識』(KADOKAWA)からの抜粋です。
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【実例:70代の睡眠のケース】
腰痛があるため、夕食後、身体を休めるために横になる。そうすると痛みが癒される。うとうとしてしまうため、そのあと眠る時刻になると今度は寝つけない。
1~2時間おきに尿意で目が覚めてしまうこともある。1度くらいはトイレに行くことはなんともないが、2度、3度となると、さすがにしんどい。
血圧が高くなったので、降圧薬を服用するようになった。医師から睡眠時間を充分とるように言われた。糖尿病予防にも睡眠をとることが大切だと言われた。8時間睡眠を目指して、10時に就床し6時起床の生活を始めたが、1週間もしないうちに夜中に目が覚めるようになってきた。
かかりつけ医に眠れないことを訴えたところ、睡眠薬を処方してくれたが、友人からくせになると言われたために服用していない。
●原因・背景
この年代になると、加齢による種々の身体的不調が増えてきます。腰の問題や関節の問題で、それまでやっていた運動量をこなすことが困難になったり、身体を休める必要が出てくるようになります。高血圧や糖尿病などをもつ人が増えてくるので、健康への関心も強くなります。尿意や痛みで目が覚めるということも増えてきます。睡眠が浅い状態だと、とくに目が覚めやすくなります。
筋肉や骨、関節の問題は身体を休めることで対処できます。医師とよく相談して、現在ある機能を長く保持できるよう身体を大切に使うことが重要です。実際に、腰の問題などは横になって、身体を休めることで回復でき、こうした意味で就床で回復することは実感できますが、横になっているからいっそのこと眠ってしまおうと思うようになると悪循環にはまってしまいます。
筋肉や関節などの疲れは横になって休むことで回復をはかることができますが、だからといって眠れるわけではありません。運動で眠れるようになるのは、運動のために脳が疲れた分、眠れるようになるので、横になっている時間を眠って過ごそうと思ってもうまくいかないのです。
加齢に関連したさまざまな身体の不調を感じるせいで、高齢になるほど身体への気遣いが強くなります。なんとかうまい工夫がないだろうか。その解決策として睡眠を極端に大きく意識するようになると、同時に眠れないことへの不安が増してきます。少しでも眠れないと、また今夜も眠れないのではという心配や不安が就寝後にも続くので、さらに眠りを妨げる原因になります。そういう悪循環に陥っている人が多くなります。
●対策のポイント
身体のために横になって過ごす時間と、眠るための時間を意識的に区別することが重要です。腰のために横になるときは少し上体を立てるなど、姿勢を変える工夫をするとともに、横になって身体を安ませるときは照明を点けて、眠るときは照明を消すといったように、明るさで違いを作り出すことが重要です。
もちろん、これまで述べてきたように、就床時間は熟睡感や休息感を得るために、長くなりすぎないことが条件になります。
男女の睡眠に関する相互作用
この頃には、夫婦別室で生活する人も増えてきます。それぞれの睡眠に関する認識もそれとなくできてくることになります。60代にみられた男女の違いがそのまま残ることもありますが、問題はだんだん共通のものになってきます。
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