成人の約5分の1が「不眠」と言われる現代。市場には「快眠」のための情報やグッズが溢れています。しかし実は睡眠に関しては多くの誤解や不正確な情報が氾濫しているのが現実です。精神神経学・睡眠学・時間生物学の第一人者が、中高年男女のための「快眠法」を伝授。本当にぐっすり眠りたい現代人のための「睡眠ガイド」です。
※この記事は書籍『睡眠学の権威が解き明かす 眠りの新常識』(KADOKAWA)からの抜粋です。
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【実例:男性60代の睡眠のケース】
満足感が得られない
還暦を過ぎてから社内でのポストや立場が変わって仕事の仕方も変わった。時間にも余裕ができた。ずっと睡眠不足気味で働いてきたから、いまこそしっかり時間をとって眠ろう。そうすれば、老いを感じることもなくなるだろう。高血圧や糖尿病も心配だ。充分な睡眠をとれば生活習慣病を防ぐことにもなるだろう。だが、ゆっくり休んで生活を始めたが、睡眠が浅くなった。
定年になったので、健康のため、午前と午後に散歩をして、夜はこれまでより2時間早めて10時に寝床に入る。朝は1時間遅くして7時に起きるようにした。だが期待はずれだった。寝床に入ってもなかなか寝つかれない。夜中に目が覚めることが多い。どうしても眠りに満足感が得られない日々を過ごしている。よく眠れるようになるといわれるサプリメントも飲んでみたが、あまり効き目が感じられない。
時間的にゆとりができて観光目的で海外旅行に行くようになったが、帰国後に時差ぼけがなかなか治らない。仕事で外国に行ったときにはスケジュールがタイトだったが、すぐに回復していたのに。
●原因・背景
男性は50歳前後から明らかになってきた朝型化傾向が進む人が多くなってきます。若い頃から朝型だった人、つまり生まれながらの朝型体質の人では、極端に朝型化して夜は8~9時頃に就床し、朝は3時に目覚めるようになる人もいます。
健康な人では、年を重ねるにしたがって夜間の睡眠時間は減っていきます。夜、実際に眠ることのできる時間は45歳では約6.5時間ですが、65歳になると約6時間になります。10代前半の頃にくらべて実に2時間も減るのです。
身体はこのように変化しているのです。時間にゆとりができたから、若いときと同じように長い時間寝床にいて、深くぐっすり眠るというのは無理になってきます。そもそも、若いときに毎日長く眠っていたかというと、そんなことはないはずです。
思い出してみてください。元気だった頃は、時間がもったいなくて夜更かしが多かったのではありませんか? そうした生活のあと、休日に眠ったときに長くぐっすり眠ったのでは? 眠りすぎて休日に頭が痛かったこともあったのでは?
60代には、働き方の変化や定年退職という大きな転機があります。朝早い出勤が不要になり、好きなだけ眠っていられるようになります。現役時代より大幅に時間の余裕ができるので、良い睡眠を志向するようになります。早寝と長い就床でそれを実現しようとすると、やはり寝つけない、眠りが浅い、夜中に何度も目が覚める、朝早くに目が覚めてしまうという悪循環になるのです。
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