学生時代は成績優秀でも仕事でつまずきADHDに気付く人、ADHDの特性を生かして働く人/大人の発達障害

「相手の気持ちが分からない」「その場の雰囲気を察することができない」「整理整頓ができず部屋中に物が散乱している」...。仕事や家庭生活でこんな悩みを持ち、「もしかしたら自分は『大人の発達障害』かもしれない」と考える人が増えているようです。以前は「発達障害」といえば子どもの疾患だと考えられていましたが、近年、大人になってからも症状が続くことが認識されるようになりました。テレビや雑誌などでも「大人の発達障害」として、「ADHD(注意欠如多動性障害)」や、ASD(自閉症スペクトラム障害)の一種である「アスペルガー症候群」などが頻繁に取り上げられるようになっています。

発達障害とはどんな疾患で、どんな特性があるのかなどについて、発達障害の診断・治療の第一人者である昭和大学医学部精神医学講座主任教授の岩波明先生に聞きました。

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●ADHDの人は職場で不適応を起こしやすい

2000年代以降、企業では年功序列型から実力主義に変わりつつあり、社員の管理も厳しくなっています。コンプライアンス(法令順守)を重視する傾向が強まって、さまざまなことについて文書での報告を求められるようになりました。ADHDの人はそのような風潮に馴染めずに、不適応を起こすケースが目立ち始めたのです。

ADHDの人は学校の成績が良いことも多く、成長するにつれて自分なりの工夫や努力で対処法を身に付けていきます。親や教師など周囲の人の配慮にも助けられ、学生時代までは何とか不適応を回避することができるようです。たとえ多少のうっかりミスや聞き漏らし、物の紛失などを起こしたとしても、学生であればそれほど重大なことにならずに許される面もあります。

しかし、社会人になると新入社員でもある程度の仕事を任され、責任が格段に重くなります。そんな状況でもADHDの人は相変わらず、ケアレスミスを繰り返してしてしまうのです。また、上司の話をきちんと聞くことができず、仕事の手順も悪く、やるべきことを先延ばしにして期限に間に合わなくなることもあります。学生時代までとは違って、それらはすぐにトラブルの原因となるのです。

「ADHDの人は、自分では一生懸命やっているつもりでも周囲の人に『いい加減に仕事をしている』『信頼できない』と思われて、人間関係まで悪くなり不適応を起こしてしまいます。そのようなケースは入社1年目から3年目ぐらいの人に多いのです」と岩波先生。

<職場で指摘されやすいADHDの特性>
・同時に並行していろいろなことを処理できず混乱する。
・学歴からは考えにくいような入力ミス、誤字脱字などのケアレスミスを頻繁に起こす。
・時間管理が下手で、机の上や身の回りの整理整頓ができない。
・相手が話をしていても自分の話をかぶせてくる。自分の話を優先させないと気が済まない。
・飽きっぽいが、興味のあることには過剰に集中する。

 
●ADHDの特性を生かせる仕事もある

ADHDの人はもともと人あたりがよく、集団にスムーズに入って行ける特性があります。人なつこく無邪気に相手の懐に入り込むのが上手で、それを生かして営業職として成功している人も少なくありません。ほかにもデザイナーやイラストレーターなど、比較的、個人の裁量で行う仕事の場合、興味のあることに著しい集中力を発揮する特性を生かして、優れた成果を出す人もいます。

「ADHDで受診する人の多くは、知的には正常以上の人です。有名大学を卒業して企業の第一線で活躍している人や、医師や弁護士といった職業についている人も多いです。ADHDとしての自分の特性を自覚し、みなさん工夫しながら対応しています」と岩波先生。

 
●出版社で働くAさんの例

出版社の非常に忙しい職場で働く理系出身のAさんは、自分がADHDで混乱しやすいことがよく分かっているので、毎朝、出社するとまず、その日にやるべきことを全て箇条書きにするそうです。そして終わったものは線で消していくとのこと。このような確認作業を欠かさないおかげで、ハードな職場にいてもミスや抜けを防ぐことができているそうです。個人の裁量で仕事ができる部署だということもあり、自分に合った対処法を用いて支障なく働いています。

 

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取材・文/松澤ゆかり

 

岩波明(いわなみ・あきら)先生

昭和大学医学部精神医学講座主任教授、同大学附属烏山病院病院長。医学博士。東京大学医学部卒業後、都立松沢病院、東京大学医学部精神医学教室助教授、埼玉医科大学精神医学教室准教授などを経て現職。著書に『発達障害』(文春新書)、『大人のADHD』(ちくま新書)などがある。

昭和大学附属烏山病院ホームページ

 

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