「相手の気持ちが分からない」「その場の雰囲気を察することができない」「整理整頓ができず部屋中に物が散乱している」...。仕事や家庭生活でこんな悩みを持ち、「もしかしたら自分は『大人の発達障害』かもしれない」と考える人が増えているようです。以前は「発達障害」といえば子どもの疾患だと考えられていましたが、近年、大人になってからも症状が続くことが認識されるようになりました。テレビや雑誌などでも「大人の発達障害」として、「ADHD(注意欠如多動性障害)」や、ASD(自閉症スペクトラム障害)の一種である「アスペルガー症候群」などが頻繁に取り上げられるようになっています。
発達障害とはどんな疾患で、どんな特性があるのかなどについて、発達障害の診断・治療の第一人者である昭和大学医学部精神医学講座主任教授の岩波明先生に聞きました。
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●特定の作業に障害がある「学習障害(LD)」と特異な能力を持つ「サヴァン症候群」
発達障害にはADHDやASDのほかにもさまざまな疾患があります。その一つは「学習障害(LD)」です。「学習全般ができないこと」だと誤解されやすいのですが、そうではありません。正式な疾患名が「限局性学習障害」ということからも分かるように、「ある特定の物事の一部だけができない」という疾患なのです。知能は正常なのに「読む」「書く」「計算する」などのうちの、どれかだけに障害があることをいいます。
「学習障害の中でいちばん多いのは『ディスレクシア(読字障害)』です。他のことは問題なくできるのに、文章を読むことだけが苦手な状態をいいます。簡単な文章を読むのにも、普通の人の3、4倍の時間がかかるケースもあるのです。その場合、文章の行間が広く空いていると読めることもあるようです。学習障害はほかに、計算だけができない『算数障害』、文字を書くことだけができない『書字障害』などもあります」と岩波先生。
疾患ではないのですが、発達障害の人に見られる症状として、最近よく知られるようになったのが「サヴァン症候群」です。発達障害の中でも、おもにASDの人に伴って現れる特異な症状です。この症状が現れる人は極めて少数ですが、何千冊もの本を丸ごと覚えているような驚異的な記憶力や、何年何月何日は何曜日だったかなどが即座に分かる特異な計算力、音楽や美術などに対する天才的な才能などを持っているのです。
「サヴァン症候群は、かつては知的障害や脳障害を伴う場合が多いといわれてきました。最近は軽度のアスペルガー症候群の人など、知的能力が高い人にもサヴァン症候群の症状が見られることが報告されています」と岩波先生。
●「愛着障害」では発達障害と似た症状が見られることも
発達障害ではないのですが、親の養育が原因で発達障害に似た症状が現れることがあります。子どもへの「身体的な虐待」、食事や身の回りの世話を怠って放置する「ネグレクト」などによって起こる「愛着障害」です。正式には「反応性愛着障害」といいます。養育者である親、特に母親が子どもにかけるべき愛情をかけなかったことにより、子どもにさまざまな精神的な反応が現れるのです。
例えば、衝動性が強く他人を傷つけたり、自分の頭を壁に打ち付けたりすることがありますが、これはADHDの症状と似ている場合があります。大人になってからも、人と親しい関係が築けない、自己肯定感が低いなどの状態が続くのです。愛着障害は生まれつきのものではなく親の養育が原因なので、適切な環境を与えれば症状の改善が可能です。
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取材・文/松澤ゆかり