「相手の気持ちが分からない」「その場の雰囲気を察することができない」「整理整頓ができず部屋中に物が散乱している」...。仕事や家庭生活でこんな悩みを持ち、「もしかしたら自分は『大人の発達障害』かもしれない」と考える人が増えているようです。以前は「発達障害」といえば子どもの疾患だと考えられていましたが、近年、大人になってからも症状が続くことが認識されるようになりました。テレビや雑誌などでも「大人の発達障害」として、「ADHD(注意欠如多動性障害)」や、ASD(自閉症スペクトラム障害)の一種である「アスペルガー症候群」などが頻繁に取り上げられるようになっています。
発達障害とはどんな疾患で、どんな特性があるのかなどについて、発達障害の診断・治療の第一人者である昭和大学医学部精神医学講座主任教授の岩波明先生に聞きました。
前の記事「ADHDの症状と家庭生活。家事が苦手でADHDと気付くケースも/大人の発達障害(7)」はこちら。
●「自閉症スペクトラム」とはどういう意味?
発達障害の疾患の一つASDは、日本語では「自閉症スペクトラム障害」といいます。「スペクトラム」というのは耳慣れない言葉かもしれませんが、「症状や現象などが、あいまいな境界を持ちながら連続している状態」を表します。「自閉症スペクトラム障害」とは「自閉症の症状は軽症から重症までさまざまな段階があり、それを連続した一つの疾患として捉える」ということです。近年はさらに「軽症」の延長として、障害がほとんど見られない「非障害性ASD」という考え方も提唱されるようになっています。
ASD(自閉症スペクトラム障害)には、「自閉症」や「アスペルガー症候群」などが含まれます。それぞれの特性をまとめてみました。
◎自閉症
・言葉によるコミュニケーションが困難。
・他人と社会的関係を築きにくい。
・外出の道順、物の置き場所など特定の事柄にこだわる。
・知的障害を伴うことが多い。
◎アスペルガー症候群
・言葉によるコミュニケーションの障害は軽度。言葉を額面通りに受け取る傾向がある。
・相手の感情や気持ちを理解するのが苦手で、対人関係が不得意。
・鉄道やコンピューター、ゲーム、コレクション収集など特定のものに偏った興味を示す。
・知的障害はみられず、正常以上の知的能力を持つ人もいる。
●相手の気持ちを理解しにくいASD
ADHDとともに大人の発達障害として近年取り上げられることが多い軽度のASDの人の特性をもう少し詳しく見ていきましょう。
ASDの中でも症状が軽度だといわれているアスペルガー症候群の人は、幼少時の言葉の発達については遅れが見られず、言葉でのやりとりは普通にできる場合がほとんどです。知的能力が正常以上に高い人も多いのですが、子どものころから言葉を額面通りに受け取る様子がみられます。例えば、先生が「道草を食わないで帰りなさい」と言うと、「草なんて食べるわけがない」と言ったりするのです。これは大人になってからも変わらず、職場でも冗談や皮肉が通じにくいことがあります。
「ASDの人は軽度の場合も対人関係が苦手で、特に言葉を使わないコミュニケーションが不得手です。相手の表情やふるまいから言葉以外のメッセージを汲み取ったり、相手の気持ちを察することができないため、相手と深い関わりを持つことが難しいです」と岩波先生。
また、ASDの人は自分の興味のあることに没頭するケースも多いです。ゲームにのめり込んで、仕事以外の時間はひたすらゲームをやり続ける人、好きなスポーツチームのグッズ集めに熱中し、家中にグッズが溢れている人などもいるそうです。
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取材・文/松澤ゆかり