近年、よく耳にする大人の「発達障害」。「ADHD(注意欠如多動性障害)」、ASD(自閉症スペクトラム障害)の一つである「アスペルガー症候群」などがあり、職場にうまく適応できず、精神科を受診する人が増えています。また、仕事のストレスなどで「うつ」を発症するリスクは、誰にでもあるといえます。大人の「発達障害」と「うつ」について、昭和大学医学部精神医学講座主任教授の岩波明先生にお話を伺いました。
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「発達障害」の問題行動は子どもの頃に始まることが多い
大人になってから発達障害と診断されるのは、就職後1~3年目の人に多いようです。症状は大人になってから急に現われるのではなく、子どもの頃から、言動に特徴的な症状がみられます。
「ADHDの子どものうち5パーセント程度しか、児童精神科で治療を受けていません。残りの9割以上の子どもは軽症のため、気付かないまま成長するのです」(岩波先生)
軽症のADHDの人は、学校の成績が良い人も少なくありません。「成績が良いので、学生時代は自分なりに工夫して、周囲に対応できました。しかし、大人になると、職場では責任の重みが違います。不注意や聞き漏らし、物の紛失などが頻繁に起こると、これがトラブルの原因に。人間関係を悪化させることにもなって、うまく職場に適応できなくなるのです」
ADHDの子どもから大人になると起こる行動の変化
また、アスペルガー症候群の人は、対人関係を苦手とすることが多く、世間話などをせず、職場で打ち解けにくい特徴があります。「データ入力や解析など、あまり他人と接しない職種で、問題なく働いている人もいます」(岩波先生)
発達障害には治療法や支援窓口があります。岩波先生は「家族や職場の人がこの障害の特性を知り、理解を示すことが大事です。適応できる部署や業務を探せば、能力を発揮できます」と話します。
<ADHD患者のエピソード>
「うつ」と診断されたが本当の病名は「ADHD」
公務員のAさんは30代。幼少期から不注意な面がありましたが、性格は温厚で、学校生活に支障はありませんでした。就職して社会人になると、仕事の進行が遅く、周りに迷惑をかけることに。上司の指摘で憂鬱になり、自ら精神科を受診。抗うつ薬を飲んでも改善がみられず、知人の紹介で発達障害の専門外来を受診したところ「ADHD」と診断されました。治療薬を変えると集中力も増して、仕事のミスも減りました。
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取材・文/松澤ゆかり イラスト/オオノマサフミ