「血糖値が高くなってきて不安...」という人は、筋肉が衰えているかもしれません。加齢や運動不足によって、糖を消費しやすい筋肉(速筋)が減ることで、糖の消費量も減少してしまうんです。そこでオススメしたいのが1回7秒のスクワット。25年にわたってスクワットを研究してきた、うさみ内科院長の宇佐見啓治(うさみ・けいじ)先生は、「いまある筋肉の維持には、週2回の7秒スクワットで十分。目標は10回×3セット。連続して行うのが難しい人は、少ない回数、少ないセットから始めて、自分のペースで続けてください」と言います。そんな「血糖値が下がる7秒スクワット」特集のまとめをお届けします。
1.「7秒スクワット」でHbA1c(ヘモグロビン・エーワンシー)が改善!
【53歳・Sさんの場合】
HbA1c 10.7% →6.3%(3カ月後)
スクワットのほか、肉、魚、卵、大豆食品を中心として、糖質を減らす食事に。あわせて血糖降下薬を服用。空腹時血糖値374mg/dlが110mg/dlに。4カ月目には服薬も終了。
【73歳・Yさんの場合】
HbA1c 7.9%→6.4%(2カ月後)
スクワットを続けるほか、塩分や炭水化物の摂り過ぎに注意した食事を実践。高かった空腹時血糖値とLDLコレステロールが基準値に。ひざの痛みも軽減。
【70歳・Tさんの場合】
HbA1c 6.9%→6.1%(3カ月後)
スクワットにプラスして、夜は白米を食べないように。血糖降下薬を服用。空腹時血糖値が基準値に。体重が63kgから56kgへ。長年の肩こりも解消。
HbA1cとは?
赤血球の中にあるヘモグロビンに、ブドウ糖が結合したもので、測定前の約1~2カ月間の平均血糖値を示す数値。一方、血糖値は、血液中のブドウ糖の量のことで、食事や運動の影響を受けて変化しやすく、空腹時には低下し食後には上昇します。
[判定の目安]
● 正常型 5.6%未満
● 要注意 5.6~5.9%
● 糖尿病が否定できない 6.0~6.4%
● 糖尿病型 6.5%以上
2.「7秒スクワット」のルール
①筋肉を伸ばす
筋肉は縮める運動より伸ばす動作の方が負荷が大きくなります。ゆっくり腰を落としながら下半身の筋肉をじっくり伸ばし、その状態をキープすることで、筋肉の中に蓄えられている筋グリコーゲン(※)を効率良く使い切れます。
※筋肉に蓄えられる糖の一種で、筋肉の収縮のためのエネルギー源となります。 筋肉に蓄えられるグリコーゲンを、筋グリコーゲンといいます。
ひじを伸ばすとき、腕の筋肉は伸びながら筋力を発揮しています
②呼吸を止めない
スクワット中に呼吸を止めてしまうと、血圧が急上昇したり、心拍数が速くなってしまうことがあります。安全に行うためには、「いーち、にー、さーん」と、声を出しながら腰を落としていきましょう。自然に呼吸ができます。
③とにかくゆっくり
腰を落とすときはゆっくり、じっくり行うのがポイント。慣れて余裕が出てきたら、10秒くらいかけて腰を落としていくと、より効果が高まります。はじめはきついでしょうが、続けるうちに慣れていくので頑張ってみましょう。
④立ち上がりは素早く
立ち上がるときにそれまでキープしていたお尻をさらに下に落として反動をつけてしまうのはNGです。ひざに余計な負担がかかり、ひざを痛める原因になります。反動はつけずに、素早く立ち上がるようにしましょう。
◎こんなときは!
7秒スクワットは安全な運動ですが、持病がある人や、動作中に痛みや違和感があったときはすぐに中止し、かかりつけの医師に相談しましょう。
3.すたすた歩ける人は...「ゆっくり7秒スクワット」
下半身の大きな筋肉を鍛えましょう
●10回×1日3セットを週2回
しゃがんで立ち上がる動作を10回繰り返して1セット。1セットごとに、30秒~1分くらいの休みを入れながら行いましょう。
① 両腕を前に出し、両足を肩幅より広げて立つ
両手は前に出す
両手を前に出すとバランスをとりやすくなります。首の後ろで両手を組むと、動作中に力が入って首を痛めることがあるのでNG 。
肩幅より拳二つ分広げる
がに股になってもいいので、足幅は広めにします。つま先はやや外側に向けましょう。
② 7秒数えながら、ゆっくり腰を落としていく
ゆっく~り
ひざはつま先より前に出ない
お尻をしっかり引きながら腰を落とし、曲げたひざが足のつま先より前に出ないように注意を。
③ 太ももが床と平行になったら2秒静止。反動をつけずに立ち上がる
背中は丸めない
床と平行
太ももが床と平行になるまで腰を落とすのが理想ですが、できる範囲でかまいません。
▶詳しい記事はこちら:血糖値が下がる!「ゆっくり7秒スクワット」のススメ
4.足腰に自信がない人は...「つかまり立ち7秒スクワット」
いすを使って下半身の筋肉を強化します
●10回×1日3セットを週2回
しゃがんで立ち上がる動作を10回繰り返して1セット。1セットごとに、30秒~1分くらいの休みを入れながら行いましょう。
① 両腕を前に出して、いすの背にのせる。両足を肩幅より広げて立つ
肩幅より拳二つ分広げる
がに股になってもいいので、足幅は広めにします。つま先はやや外側に向けましょう。
※「体が安定しない」「うまく動作ができない」という人は、さらに両足を広げましょう
② 5秒数えながら、ゆっくり腰を落としていく
できる人は、さらにゆっくり行ってもOK
お尻をしっかり引きながら腰を落とし、曲げたひざが足のつま先より前に出ないように注意を。
▶詳しい記事はこちら:足腰に自信がない人もチャレンジ! 血糖値が下がる「つかまり立ち7秒スクワット」
5.さらに頑張れる人は...「かんたん腕立て伏せ」
上半身の大きな筋肉を動かします
●10回×1日3セットを週2回
ひじを曲げて伸ばす動作を10回繰り返して1セット。1セットごとに30秒~1分くらいの休みを入れながら行いましょう。
① 両手は肩幅より少し開き、両ひざを床につける
両ひざはくっつける
両ひざはくっつけておいた方が、力を入れやすくなります。
目線は前方へ
両手の幅は肩幅よりも広め
胸が床につく直前にひじから下が直角になるのが理想。肩幅と同じ広さに手を置くと、大胸筋を刺激できなくなります。
② 5秒かけて、ゆっくりひじを曲げていく
頑張れる人はもっとゆっくりやってもOK
⇒胸が床につく直前で静止し、2秒間キープ。最初の姿勢に戻る
お尻の位置はそのまま
お尻を後ろに引いたり、下げたりしないように注意をして行いましょう。
▶詳しい記事はこちら:筋肉を増やして血糖値を下げましょう。上半身を鍛える「かんたん腕立て伏せ」
6.【解説】筋肉が増えると、なぜ血糖値が下がるのか
加齢や運動不足で減る筋肉を維持して糖尿病を予防
いまや糖尿病は、患者と予備軍を合わせて約2000万人(※)。
身近な病気だけに、健康診断で「血糖値が高い」「糖尿病予備軍ですね」などと言われた経験がある人もいることでしょう。
糖尿病は、食事によって体内に取り込まれた炭水化物(ブドウ糖)が、本来使われるはずのエネルギー源としてうまく使われず、血液中のブドウ糖の濃度が高くなり、それが原因で血管にダメージを受ける病気です。
予備軍の段階ではほぼ自覚症状がなく、「のどが渇く」「トイレが近くなる」といった症状が表れたらすでに重症。
放置すれば、血管はボロボロになり、神経や目、腎臓などに合併症を引き起こします。
※厚生労働省:平成28年「国民健康・栄養調査」より
糖尿病の原因は、筋肉の代謝の低下です
●健康な人と2型糖尿病の人のブドウ糖の取り込み率
DeFronzo RA:Diabetes37(6):667-687.1988
上図によると、2型糖尿病の人も、腹部臓器、脂肪組織、脳の細胞では、健康な人と同じようにブドウ糖を取り込めていることが分かります。ところが、筋肉の細胞だけは、健康な人の半分以下に落ちています。
「ブドウ糖は体を動かすためのエネルギーになります。2型糖尿病の人の場合、ブドウ糖の取り込み率が悪くなる部位は、ほとんどが筋肉(上の図参照)。筋肉がブドウ糖を取り込めなくなることで、血液中にブドウ糖があふれてしまっているのです。原因は、加齢や運動不足などで筋肉量が落ちてしまったことにあります」と、宇佐見啓治先生。
▶詳しい記事はこちら:筋肉の代謝がアップすると...? 糖尿病の予防に「スクワット」が効果的な理由
7.「7秒スクワット」の効果を高める「食事」とは
【問題です】どちらの食事が糖尿病によくないでしょう?
正解は・・・白米。
実は、チャーハンはお米が油でコーティングされているため、体の中に入ってきても血糖値が急激に上がることはないのです。
血糖値を正常範囲にするには夕食のご飯をがまんするだけ
血糖値を急激に上げないためには、食事も大切と宇佐見先生。
糖尿病の改善や、予備軍からの脱却にはどんな工夫が必要でしょう?
「気を付けたいのは、ご飯や麺類などの炭水化物ですが、7秒スクワットを続けていれば、夕飯時だけ、ご飯を食べるのをがまんするだけで十分です。夕食でご飯を一粒も食べない分、肉や魚、野菜、卵などのおかずは多めに摂るようにしてください。また、間食は、ナッツ類を一つかみ、チーズを一かけら程度にするといいでしょう」
宇佐見先生がおすすめする、多く摂りたい食品は下の通りです。
7秒スクワットとともに生活習慣に取り入れて、血糖値の安定に役立てましょう。
夕食はおかず多め間食はナッツやチーズを
【たっぷり食べていいもの】
▶詳しい記事はこちら:チャーハンと白米「糖尿病によくない食事」はどちらでしょう?
8.「7秒スクワット」の「血糖値が下がる」ほかのうれしい3つの効果
脳や骨、血管にもいいから続けられます!
●骨の老化を予防して骨折や転倒を防ぐ
高齢者が転倒すると簡単に骨折してしまう原因の一つは、骨が老化しているため。
「骨も筋肉と同様、加齢とともに衰えます。丈夫な骨を維持するには、骨に刺激を与えること。そのためには、運動できるだけの筋肉を保ち続ける必要があります」(宇佐見先生)。
週2回の7秒スクワットで、筋肉を鍛えて動ける体を維持することで、骨の老化を防ぎ、骨折や転倒を予防できます。
●体を動かして脳を刺激認知機能を保つ
認知症の原因の一つに、運動機能が衰えて行動範囲が狭くなることが指摘されています。
「認知症予防には、ウォーキングなどの有酸素運動が有効ですが、歩ける体の維持には、歩けるだけの筋肉が必要です」と、宇佐見先生。
7秒スクワットでいまある筋肉を維持するのはもちろん、歩行がつらくなっている人は、つかまり立ちスクワットで筋肉を取り戻すように努めましょう。
▶詳しい記事はこちら:脳や骨、血管にもいいんです♪ 「7秒スクワット」うれしい3つの効果とは?
【まとめ読み】特集「血糖値が下がる7秒スクワット」記事リスト
取材・文/寳田真由美(オフィス・エム) 撮影/西山輝彦 イラスト/落合 恵 モデル/永谷佳奈